「国連PKO」に日本はどう取り組むべきなのか 縮小と変質が進む中、再検討する時期にある

拡大
縮小

『クルーズ・レポート』は多岐にわたる分析と提言を行っているが、基本的なメッセージは、「強い敵を襲う者はいない」、である。その観点から指導者層の資質や作戦面の向上も唱えるが、「残念ながら、敵対勢力は武力以外のことを理解しない」とし、「安全を高めるためには、脅威を認識し、脅威を除去すべき」であることを明言する。また「防御的な姿勢で待ち続けることは、敵対勢力に、いつ、どこで、どのように国連を攻撃するかを決める自由を与えることを意味する」とも指摘している。

さらに軍事・警察要員に関して、次のように言う。「軍事・警察要員貢献国が、様々な理由や関心で平和維持活動に参加するのは普通のことであり、受け入れられる。しかし、彼らは機能しなければならない。国連は、差し止め請求を受け入れてはならない。なぜなら平和維持活動の統合性と相互防御能力が弱められてしまうからだ。そうなってしまえば、犠牲者が増える」。

PKOの質・量の変質と拡大

こうした切実な状態に至るまでには、国連PKOの質・量の拡大があった。

日本のPKO協力法は、「紛争当事者の同意」がPKO3原則の1つだという認識がある。しかしその原則の厳密解釈は、すでに過去の遺物だ。国連PKOの原則を説明する文書『キャプストン・ドクトリン』(2008年)の言葉を用いれば、「主要な紛争当事者の合意」は、地方レベルで合意があることまでも前提にしていない。

さらに、伝統的な国連PKOで原則とされていた「中立性(neutrality)」が、「不偏性(impartiality)」という概念に転換した。これによって中間的な立場をとる「中立性」よりも、国際人道法などにしたがった原則に忠実である「不偏性」こそが、平和維持活動に求められるようになった。それはつまり、和平合意の逸脱者や戦争犯罪者などに対しては、断固とした態度をとる、ということを意味する。

また、「自衛および任務の防衛以外の場合の武力の不行使」とされた原則は、さらに強化された(robust)PKOを裏書きした。任務を防衛するためには武力行使もやむを得ないということは、職務遂行にあたって武力行使が許されない領域はない、ということだ。より具体的には、「文民の保護(POC)」の任務は特に重要なものとみなされ、大規模ミッションであれば、国連安全保障理事会がPOCの履行について国連憲章第7章の強制措置の権威を、あらかじめ付与しておくことが一般的になった。

量的面を見てみよう。国連PKOの要員数は、1992年には1万人程度でしかなかった。冷戦終焉直後の武力紛争数の増加を受けて、1995年までに一気に約8万人にまで膨らんだ後、度重なる任務の失敗を受けて、要員数は1990年代後半に大幅縮小して元に戻った。しかし1999年以降に再び反転し、2000年代を通じて拡大し続け、2010年には全体で12万人(軍事・警察要員は10万人)という規模になり、財政的にも年間70億ドル程度の予算を誇るに至った。これは国連本体予算の約3倍の規模である。

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