六本木ロアビルが姿を消さざるを得ない事情 東京都の耐震強度不足ビル「実名公表」の波紋

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今回の措置は東京都に限ったわけではなく、2013年11月に施行された改正耐震改修促進法に基づいて全国で実施されることが決まっているものだ。病院、店舗、旅館など不特定多数の人が利用する大規模建築物(床面積5000平方メートル以上)は、2015年12月末までに各自治体に耐震診断結果の報告が義務付けられていた。

その結果の公表時期は「準備が整い次第」として各自治体に判断が任されており、東京都では2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催が2年後に迫った、このタイミングで公表に踏み切った。

「すでに2年前から実名の公表は決まっていたことで、そのことは各事業者に伝えていた。耐震診断結果の報告を義務付けられていた建物では何らかの対策を進めていたはず」(東京都都市整備局市街地建築部建築企画課)と、法律に基づいた措置であることを強調する。

SHIBUYA109の場合

確かに耐震改修促進法が改正されて4年以上が経過しており、1981年以前の旧耐震基準で建てられた建物のオーナーは何らかの対応に迫られていた。今回、六本木・ロアビルと同様に「安全性の評価Ⅰ」と公表された商業ビル「SHIBUYA109(道玄坂共同ビル)」の場合、すでに耐震改修工事を行う準備を進めていたが、今回の公表には間に合わなかった。

「商業テナントビルとして稼働させたまま、テナント企業に影響がないように耐震改修する方法を検討してきた」と、渋谷でも人気が高いテナントビルだけに稼働率を維持する工夫に時間がかかっていた。昨年度から設計作業には着手しており、2019年度には着工する計画だ。

「安全性の評価Ⅰ」の建物を取材すると、それぞれに対応が遅れる、何らかの事情を抱えていた。しかし、大地震がいつ発生するかはわからない。実名の公表を機に、いかに対策を加速できるかどうかである。

六本木ロアビル1階には「六本木横丁」の名称で、居酒屋など約20店舗もの飲食店が入っている(撮影:紐野義貴)

六本木ロアビルは、森ビルを中心に2008年に再開発準備組合を立ち上げている「六本木5丁目西市街地再開発事業」の対象区域にかかっている。本来なら再開発計画が決まって着工するタイミングで古い建物を取り壊したほうが都合はいいはずで、ロアビルのオーナーも事業計画が具体化するのをギリギリまで待っていたのだろう。

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