日米貿易交渉入りで円高が進むのは必然だ 想定どおり日本が追い込まれた日米首脳会談

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金融市場は今回の厳しめの報告書に対してさほど反応しなかったが、「ファーストリアクションの有無」ばかりに目を奪われて米国の通貨・通商政策をないがしろにするのは危険である。過去を振り返っても、報告書の公表直後に相場が大きく動くようなことは基本的にはなかった。しかし、だからと言って、そこで示唆された内容や方向感がその後の相場にとって意味のないものだったかといえば、そのようなことはない。

たとえば昨年4月に公表された報告書にも「REERで見れば20%割安」という円に対する評価はあった。実はその際も米国によるシリア攻撃が注目される中、「今回の報告書では為替操作国認定を受けた国はなかった」との解釈から安堵感が先行し、さほど深刻に扱われなかったという経緯がある。しかし、あれから1年でドル相場はどうなったか。米国の保護主義は先鋭化し、ドル全面安が進む中で円相場も対ドルで上昇した。報告書はトランプ政権の保護主義色をしっかり打ち出していたし、ドル安を予想すべきヒントがそこには詰まっていたと筆者は考えている。今回の報告書のトーンもそうしたトランプ政権の好みと平仄が合っており、今後への示唆は十分にあると思われる。

米国の意図は軽視できない、100円割れも覚悟

そもそも、『為替政策報告書』と銘打っているからといって、G7 の一角である米国がそこで「ドル安にしたい」という明確な意思表示などするわけがない。為替見通し策定で重要なのは、そうした事情に鑑み「ファーストリアクションの有無」を超えて、報告書からにじみ出る米財務省ひいては時の政権の意図を推し量ることである。そうした試みは簡単ではないが、(不幸中の)幸いにして、トランプ政権が求める通商政策やこれに付随する為替政策の方向感は明白過ぎるほど明白である。

前回のコラム『貿易戦争で日本が警戒すべき円高水準は?』でも述べたように、予想が難しい為替の世界でも「米国が望む通貨政策の方向感は大体かなう」と考えたほうがよい。まして、これから二国間交渉で対峙する相手国(しかも基軸通貨国)の通貨当局から「貴方の国の通貨は割安過ぎる」と言われている事実が軽いということはないだろう。日米貿易交渉という古くて新しいテーマが今後の為替相場に与える影響を軽視すべきではない。

以上のような状況認識の下、今後1年間の相場観の基本は米保護主義の強まりと親和性の高いドル安だろう。とりわけ「調整が甘い」通貨である円はその余波を最も受けやすいと考えたい。理由は日米貿易交渉だけではないが、年内1ドル=100円割れの可能性は引き続き排除できないというのが筆者の基本認識である。

※本記事は個人的見解であり、所属組織とは無関係です
 

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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