徹底解説!新型新幹線「N700S」のスゴイ技術 見えない部分に画期的な改善が施された

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主変換装置とセットになる新技術に、主電動機の6極化がある。誘導電動機は、鉄心とコイルを収めた固定子がつくる回転磁界の内側にあるかご形回転子に電磁誘導により電流が生じ、回転トルクが発生する仕組みになっている。回転子に三相交流各相のコイルをその円周に沿って2組配置したものが4極電動機であるが、これを6極にすると、コイルの数が増える分、電流を増やすことができ、一方で磁束は減らせる(出力=電流×磁束のため)ので、磁束を通す鉄心の厚みを薄くでき、小型化される。その結果、主電動機1台につき70kgが抑えられ、台車1台につき2台搭載であるから140kgの軽量化が図られることになった。

左のN700Aの主電動機が4極であるのに対し、右側のN700Sの主電動機は6極を採用(撮影:尾形文繁)

反面、主電動機が4極から6極に増えると、速度制御のためのスイッチングは1.5倍の回数と早さが要求される。そのため半導体素子の負荷が高まり発熱量も上昇して熱暴走の可能性も生じ、その冷却が大きな課題になる。こうしたネックを回避できる素子がSiCのMOSFETということでもあり、主電動機の6極化にはこれを用いた主変換装置が不可欠という関係にある。

パンタグラフは摺板が新技術のポイントである。従来は摺板1枚あたりは3つの部材による一体構成だったが、これを10分割としたうえでリンク機構でつなぎ、たわむ仕組みとした。このたわみ式摺板により架線への追随性能が大幅に向上し、離線が少なくなるので摺板、架線ともにアークによるダメージが回避されて長寿命化が図られる。なお新型パンタグラフは支持部(脚)を3本から2本にすることで約50kgの軽量化を図っている。

バッテリーで非常時の自力走行が可能に

いま一つの展示物はリチウムイオンバッテリー。展示品はバッテリーの単体であったが、これを集合させて一つの装置を構成、その装置を複数の車両に配置する。もともとは補助電源システムの一要素であるが、リチウムイオンバッテリーによる能力拡大により架線電源が途絶える地震発生時等、非常時の自力走行や一部トイレへの電源供給に利用する。自力走行はトンネルや橋梁等、避難が困難な場所からの脱出を想定しており、必ずしも次駅まで走行するものではない。非常用ゆえ空調装置は稼働させない。

このほか、台車フレームは構造を工夫して補強部材と溶接箇所を削減、下板の厚みを最適化することで信頼性の向上を図りながら約75kgの軽量化を図った。また、歯車装置の歯車には従来のハスバ歯車に代えてヤマバ歯車を採用、軸受への負荷を低減してメンテナンスの負担を軽減するとともに、安定した噛み合わせにより騒音を低減した。さらに従来型のセミアクティブダンパに小型モーターとポンプを取り付けたコンパクトなフルアクティブ制振制御装置を全車に採用して、乗り心地の向上を図っている。

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