「若者のクルマ離れ」説で見落とされる本質 新しい価値を提供できていないことが問題だ

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若者のクルマ離れを食い止めようとする思いはわかるが、ボタンの掛け違いが起きているような気がする。

「クルマで通勤したいが、帰りに1杯呑みに行きたいからクルマは買わずタクシーで済ませる」と話した若い男性もいる。ならば、自動運転のクルマであれば両立できる。

1980年のアメリカのテレビドラマに、「ナイトライダー」という番組があった。そこに登場するキットと愛称が与えられたクルマは、普段は主人公が運転し、何か危機が迫ったときにはクルマが助ける役回りだった。そのドラマを観たことのある50歳代の男性は、自動運転に懐疑的であったが、キットの話になると「ああいう自動運転なら自分も欲しい」と言いだした。

自動運転の目指すところは事故ゼロかもしれない。だが、商品性としてはキットのような魅力を顧客に伝えてこそ、消費者の関心を呼ぶことができるのではないか。なおかつ、クルマが自分で駐車場を探してくれるなら、タクシーを道端で待つより快適だろう。

クルマを利用することが不便になる側面も

実は、ドイツでもクルマ離れが起きていると、35年以上ドイツに住んだ友人に聞いた。ドイツには速度無制限区間のあるアウトバーンがあり、高性能なクルマであれば200kmの距離を1時間で移動できる。しかし、ずいぶん前から渋滞が多くなってきている。ドイツでも、クルマで移動することが苦痛になりつつある。

またクルマの性能も成熟期に入り、スポーツカーでなくSUVでも時速200km超で走れる車種があって、商品の独自性が薄れている。

国連の推計によれば、2030年に世界人口の6割が都市部に住むようになるという。その人口自体も、年々増加の一途だ。渋滞と縁遠かった各地で、クルマの移動の不便さを実感するようになった。テスラのイーロン・マスクCEOは、そこからロサンゼルスの地下にトンネルを掘って、トレーに乗せたクルマを移動させる案を考え出した。

世界人口増と大都市化によって、クルマそのものというよりクルマを利用することが不便になる側面も出てきている。「若者のクルマ離れ」が言われるようになったのは、既存の価値にとらわれない挑戦する姿を求めていると解釈できるだろう。時代の本質に迫る商品が求められ、そうした商品力やブランド力が問われるのは、所有するにも使うにも同じである。

御堀 直嗣 モータージャーナリスト

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みほり なおつぐ / Naotsugu Mihori

1955年、東京都生まれ。玉川大学工学部卒業。大学卒業後はレースでも活躍し、その後フリーのモータージャーナリストに。現在、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員を務める。日本EVクラブ副代表としてEVや環境・エネルギー分野に詳しい。趣味は、読書と、週1回の乗馬。

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