――山村さんは短大卒業後、どんな職に就かれたのですか?
山村:最初は食品会社に2年勤務していました。でも、耳の聞こえが悪くてつまずきました。指示は聴こえるけど、聞き取りができないんです。ドイツ語なりフランス語なりを聞いているような気分になり、日本語として頭の中で捉えるまでに時間がかかるというか。耳から入った情報の処理が苦手で、聞き間違いが多かったです。今は笑い話になっているのですが「あと5分過ぎで出るから」と言われたのを「え、五寸釘どうするんですか?」って聞いてしまった(笑)。
吉田 正弘(以下、吉田):どこかに打ち付けるのかな(笑)。
山村:だから、社会に出てからは怒られることがすごく多かったですね。発達障害の特性だと思うのですが、指示を正しく解釈できない。あいまいな指示をされると思考がストップしてしまう。
――ASD傾向のある人は「これを適当に片付けておいて」と言われると、どう片付ければいいのかわからないというのを聞きます。
山村:「見ればわかるでしょう?」と言われても、「わからないので聞きに来ました」という感じです。それでも、周りの人はそんな自分をよく放り出さずに教育してくれたなと思います。
あいまいな指示が増えてきて戸惑う
――吉田さんも昼はIT会社で働き、夜はバーに立ってらっしゃいますよね。大学卒業後就職した際、つまずいたことはありませんでしたか?
吉田:今まさに、つまずきつつある状態です(笑)。でもそもそも、IT自体がおそらく発達特性のある人間が作ったものなので、それを前提としたツールができているんです。プロジェクトとなると、到達までに必要な仕事を洗い出して、それをより細かくして、何時間でやるタスクというレベルで分けていきます。その上で、これを誰がいつまでにやって、やったものを誰が確認するか、というのを全部決めてから仕事が始まります。それって、発達障害の傾向があるようなわれわれにとってすごく助かることじゃないですか。
そういう業界の特性があったおかげで今までは平気でしたし、入った会社の環境が非常によくて、1、2年目は先輩が的確な指示を出してくれていました。ただ、総合職という立ち位置なので、勤務年数を重ねるにつれ、徐々にあいまいな指示が増えてきます。もう僕がその仕事に慣れてきているだろうという前提を上司は持っているので。
たとえば上司はAに連なるA1、A2、A3の仕事を依頼したつもりだったのに、僕の中ではAそのものしか伝わっていないしわからないから「Aをやりました」と報告すると「あれ? 他のはやってないの?」となることが徐々に増えてきました。
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