“不透明”なMBOに司法が警鐘 旧レックス株買い取りで少数株主の利益保護判決

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旧レックスはMBOの方針を発表する3カ月近く前の06年8月21日に、特別損失の発生および業績見通しの下方修正を発表。これを機に同社株価は大幅な下落に見舞われた。そして株価下落後の同年11月10日に、業績の再下方修正とともに、アドバンテッジパートナーズが運営するファンドが出資する企業が1株23万円で旧レックス株を一般株主からTOBで取得すると発表。同買い付けがMBOの一環としての取引であることを明らかにした。その際、1株23万円に設定されたTOB価格は、11月9日までの過去1カ月間の売買価格の終値の単純平均20万2000円に、13・9%のプレミアム(株価上昇に対する評価額)を加えた価格と説明された。そして、12月12日までの1カ月間にTOBを実施。創業者持ち株会社の保有分を含めて、発行済み株式総数の9割超を保有することになった。このTOBに反対したのが、山口氏らだった。

個人株主は、過去のMBOの事例を参考に、株価下落以前に及ぶ「6カ月平均プラス20%のプレミアム」を主張。「度重なる業績の下方修正はマイナスの側面のみを開示するという点で、株価操作を目的とする意図的なもの」と法廷で主張。そして驚くべきことに、東京高裁は「企業会計上の裁量の範囲内の会計処理に基づくもの」としつつも、「8月21日の下方修正は、MBOの実施を念頭に置いて、特損の計上に当たって、決算内容を下方に誘導することを意図した会計処理がされたことは否定できない」と決定文で言い切った。

マイナス情報だけを開示?

要は前向きな財務リストラの要素を持つ中長期的事業計画の事実を伏せたまま、大幅な特別損失のみを発表したことが、情報開示のうえで問題あり、という考え方だ。これに対して旧レックス側は、「特損を計上した8月21日当時の交渉の状況から見て、MBOの実施は確実とは言えなかった」(代理人の関戸麦弁護士)と本誌に説明。旧レックス買収の受け皿会社がすでに8月9日に設立されていたことについても、「MBOの実務上ではよくあること」(関戸氏)とした。ただ、8月21日の特損計上の発表時に、旧レックスが業績回復に向けた取り組みを何ら説明しなかったことは、釈然としない。

東京高裁は、公正な株価を算定するための期間についても、少数株主側の主張を受け入れた。

「本件MBOと近接した時期にMBOを実施した各社では、公開買い付けの公表前の3カ月または6カ月間の市場株価に約16・7~27・4%のプレミアムを加算した価格をもって買収価格としている」とし、そのうえで、8月21日の公表後の期間の市場株価は過剰に下落し、投機的取引が繰り返されていたと指摘。他の期間をも含めて平均化することでその影響を排除するためにも、「TOB直前日からさかのぼる6カ月間の市場株価の単純平均で算定するのが相当」との結論を導き出した。そして、株主からの度重なる要請にもかかわらず、旧レックス側はMBO後の事業計画も提出せず、株価算定評価書の提出もしないのだから、プレミアムを決めることは困難だとしたうえで、それゆえに「各社の例を参考に、裁判所の裁量により、プレミアムを決定するほかない」とした。そうした判断の結果、33万6966円という価格が導き出された。

この高裁決定は、旧レックスの主張をほぼ認めた地裁決定を全面的に覆すものだ。今後は、最高裁がこれらの経緯を踏まえてどう判断するかが注目される。少数株主による異議申し立ては、いよいよ大詰めを迎えている。

(岡田広行 =週刊東洋経済 写真:尾形文繁)

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