“不透明”なMBOに司法が警鐘 旧レックス株買い取りで少数株主の利益保護判決
マネジメントバイアウト(経営陣による企業買収。以下、MBO)に伴う少数株主からの持ち株の買い取り価格決定をめぐる申し立て事件(非訟事件)で、東京高裁が企業買収(M&A)や企業法務に携わる関係者を驚かせる決定を出した。
東京高裁は9月12日、焼肉店チェーンやコンビニエンスストアを全国展開していた旧レックス・ホールディングス(以下、旧レックス。2007年4月29日にジャスダック上場廃止。現在は同社を買収した企業に吸収合併され、同名で事業継続)のMBOに反対する株主からの株式取得価格を、1株につき33万6966円に修正。東京地裁で07年12月19日に示された23万円から大幅に引き上げた。地裁の決定を不服として高裁に抗告していた少数株主119人の主張を大筋で認めた形だ。
「公正な市場の実現のために大変意義のある決定だ。今後は少数株主を無視したMBOはできなくなる」と、価格決定を申し立てていた個人株主の会代表の山口三尊氏は語る。
一方、「極めて残念な結果となった。地裁と高裁で事実認定や評価がかけ離れただけに、最高裁で決着をつけたい」というのは、旧レックス側代理人の松井秀樹弁護士だ。
わが国でMBOが活発になったのはここ数年だ。企業経営者が投資ファンドなどと組んで株主から公開買い付け(TOB)などで全株式を取得。その後、企業を非公開化させ、業績を改善させたうえで再上場させるといった手法が用いられている。
MBOで利害が対立
MBOは機動的な経営が可能になる点などがメリットとして挙げられてきた。反面、経営陣が買収側に立つため、既存の株主との間で価格をめぐり深刻な利益相反があることが指摘されてきた。MBOでは、公開買い付けに応募しなかった一般株主は最終的に会社から締め出されるため、補償措置として「公正な価格」による買い取りを求める権利が会社法で規定されている。しかし、わが国では公正な価格を裁判で決定するためのプロセスが十分に確立していないのが実情だ。そうした中で、買収側と株主間で対立が生じている。
会社法に詳しい田中亘・東京大学准教授は、高裁決定の意義について、本誌に次のように語っている。
「東京高裁は旧レックスに対してMBO後の事業計画の情報開示を求めた。そして開示がないのであれば、裁判所の裁量で買い取り価格を決定するとした。つまり、今後は情報開示をしなければ、企業にとって不利な決定になりかねない」
その田中氏は、東京高裁に提出した意見書で次のように述べている。
「本件のように、株主の利益保護のための配慮が不十分なMBOが起きてしまうのは、根本的には会社法が組織再編の対価の柔軟化や全部取得条項付き種類株式の創設によって、少数株主の締め出しを容易に認めておきながら、濫用を防止するためのインフラストラクチャーをほとんど整備しなかったことが大きい。(中略)新たな立法がなされないうちは、裁判所は既存の制度を可能な限り積極的に運用し、不適切なMBOから少数株主の利益を保護するように努めるべきである」
旧レックスのMBOが適切かどうかは、一般株主からの買い取り価格が公正かどうかにかかっている。