エビデンスなき「糖質制限」論争は意味がない 「科学的」かつ「医学的」な正しさが求められる
ほかにも、動物実験ではありませんが、エビデンスとは言いがたい事例を根拠にして、医学関係者が医学的な主張をされるケースがときどきあります。
たとえば、『週刊新潮』4月12日号誌の記事では、新潟大学医学部の岡田正彦名誉教授が「糖質制限を続けるとがんや動脈硬化が起こる」という発言をされていると読めますが、先生が本当にそう主張されているとすると、非常に不思議な話です。根拠となる論文が示されていないだけでなく、そんなエビデンスはないからです。
同様に、「糖質制限で脳梗塞になりかけた」という主張をしている医師や、「糖質制限で認知症になりやすくなる」という主張をしている医師もおられますが、どれもご自分の体験談や少数の経験例にすぎないものです。
このような体験談は、科学的な分析による結論ではありません。本当に、糖質制限のせいでそうした状態になったのか、それとも別の原因があるのか、キチンと科学的に検証された結論とは言えないものです。こうした体験談は単なる医師の印象にすぎず、もちろんエビデンスとは言えません。
医学界に身を置いておられるこうした方々が、ご自分の主張がエビデンスに基づいていないとご存じないはずはなく、なぜ、こんな非科学的な主張を平気でなさっているのか、理解に苦しみます。
こうした一部医師の個人的見解を目にしたとき、医学の専門家ではない一般の方々は、それが医学的に見て無根拠であることに気づかず、誤解して信じてしまう危険があります。
エビデンスを無視して、あたかも科学的事実であるかのように強引に主張するのは、医療関係者としてフェアではない態度と思われるのです。
危険説にエビデンスなし、有効説にエビデンスあり
医学界における科学的根拠であるエビデンスには信用度の違いがあり、エビデンスレベルと呼びます。エビデンスレベルは行われた研究の手法などによって判断されています。
たとえば、『糖尿病診療ガイドライン2016』には、医学界の常識に沿ったエビデンスレベルの基準が採用されているので、紹介します。
⇒質の高いランダム化比較試験(RCT)およびそれらのメタアナリシス(MA)/システマティックレビュー(SR)
⇒それ以外のRCTおよびそれらのMA/SR
⇒前向きコホート研究およびそれらのMA/SR、事前に定めたRCTサブ解析
⇒非ランダム化比較試験、前後比較試験、後ろ向きコホート研究、ケースコントロール試験およびそれらのMA/SR、RCT後付けサブ解析
⇒横断研究、症例集積
この基準の上部に記述したものほど信用度は高くなり、逆に上記の基準に含まれないものは、エビデンスとは見なされません。もちろん、すべてヒトの研究論文であり、動物実験研究論文はありません。
この基準に照らすと、週刊誌記事などにあった「糖質制限でがんになる」という主張には、エビデンスは皆無です。
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