エビデンスなき「糖質制限」論争は意味がない 「科学的」かつ「医学的」な正しさが求められる

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その理由は、一定のリスクがありうるような実験をヒトに行うことはできないからです。そこで、人間の代わりとなるマウスやサルなどを使って実験するわけですが、得られた結論は「マウスについてはこうだった」「サルについてはこうだった」というだけの意味しかなく、「人間についても同じことが起こる」と認められたわけではないのです。

もちろん、動物実験の結果が医学の進歩のために貴重な参考データとなることもありますし、その研究論文が一流の科学誌や医学誌に掲載されることもあります。

しかし、動物実験の論文が一流誌に掲載されているのは「結論が人間の病気や健康についても事実として認められる」として尊重されているからではなく、「人間の病気や健康を考える際の参考にする」ための価値を認められているにすぎないのです。

この点を誤解してはならないと思います。

つまり、人間の病気と健康に関する科学である医学としての「正しさ」と、別の科学である動物学や獣医学、畜産学などの「正しさ」とは、きちんと分けて考えなければならないということです。

もちろん、私たち人間の病気や健康について意味があるのは、あくまでも人間の科学である医学としての「正しさ」のほうです。

ちなみに、医学としての科学的根拠のことを、医学界では「エビデンス」と呼んでいます。

もし、ヒトの健康や病気について正しい主張をするのなら、その主張にはエビデンスが必要です。エビデンスがないと、その主張は「科学的な根拠がない」もしくは「ヒトに当てはまる事実ではない」と見なされるのが、医学界の基本ルールであり、同時に、科学的な判断でもあるからです。

私もエビデンスに言及した後、いわば「余談」として自分の体験談を書くことはありますが、それと「体験談が根拠のすべて」とでは、根本的に違うのです。

動物実験や医師の体験談はエビデンスではない

エビデンスと認められるのは、医学専門誌に論文が掲載された研究ですが、先ほども述べたように、動物実験の場合は医学専門誌に論文が掲載されていてもエビデンスとは認められないのが医学界の基本的なルールです。

たとえば、日本の医学界で健康的な食事の基準としている厚生労働省の「食事摂取基準」には、根拠とするエビデンスとして論文が数々引用されていますが、動物実験の論文は一切含まれていません。動物実験がヒトのエビデンスとならないことは、世界の医学会の共通ルールです。

「マウスに糖質制限食を与えると老化が見られた」と結論付けたのは東北大学大学院・農学研究科のグループで、医学とは別の領域の研究者ですから、あるいは動物実験がヒトのエビデンスとはならないという医学界の基本的なルールをご存じなかったのかもしれません。

けれど、医師ならば当然、エビデンスの意味も、動物実験がヒトのエビデンスとならないこともご存じのはずです。

それなのに、この研究をあたかも医学的にもエビデンスがあるかのように紹介する医学関係者がおられるとしたら、不可解だとしか言いようがありません。

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