「精神障害者」と"当たり前に働く"時代の現実 障害者雇用促進法の改正で職場はどうなる

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やはり、雇用側としては、長く働いてほしいため、支援もするし、指導を行う。しかし、何かしんどくなると、その障害を理由に逃げてしまうという人が多いと畠山氏は指摘する。「障害があるから」など、精神障害を理由にやる気がなくなったといって、辞めてしまう人もいるという。

そのため、畠山氏は、就労したいという精神障害者の方や、その保護者へのアドバイスは欠かせないという。

「そもそも親が働きに行け、というのではなくて、本当に働きたいと思っていないと継続は難しいですね。軽い気持ちでは、会社は務まらないのです。ご本人には『毎日通勤するんですよ』とか、『今までみたいに嫌なときは家に閉じこもっているなんていうわけにはいかないんですよ』と伝えています。何より基礎的な体力が必要ということも伝えます」(畠山氏)

精神障害者を持つ親としては、職場でのさまざまな不安や心配事があるため、どうしても甘くなってしまうところもあるが、就労するうえでの基本的な心構えはやはり大事だと強調する。

「1人で仕事をするわけではないので、職場には仲間や先輩がいます。そうすると最低限のコミュニケーションが必要です。1人で黙っていては何もできません。

もう1つ、親御さんに対してですが、自分の子どもが働いているというだけで安心していてはダメなのです。自分の子どもが働くことをきちんと理解してサポートしていますか、と。ただ家から送り出すだけではなく、そういった親子関係を日頃から身に付けてほしいのです。それがあれば、子どもに働きがいが出てくるのです。

また、精神障害の人は薬の服用があるので、きちんと決められた時間に飲まなければなりません。そういったことも含めて、しっかりした就労の心構えをきちんと守れば、働く意識も持続するようになるのです」(畠山氏)

精神障害者本人や親は、雇用面接の際に「スキルは何が必要でしょうか。パソコンができなければだめでしょうか」と実務について訊いてくるケースが多い。

「もちろん、できればいいですが、パソコンができないからといって、雇用しないということはありません。それよりも本人や親に対して、環境や就労に対する心構えを説明し、それを理解できるかどうかが大事なのです」

そうすると親も「これからそういう認識で子どもを見ていきます」と納得するとのことだ。

精神障害者の仕事を限定的に見る必要はない

「精神障害の方の仕事もいろいろです。事務系の仕事や作業系の仕事などの清掃もやっていますし、パソコンを使ったさまざまな仕事とか、ホームページを作成したりしています。もちろん、管理者がいます。きちんとした製品になっていなければ納品はできませんから」(畠山氏)

精神障害者雇用を産業別に見ると、製造業が21.2 %と最も多く雇用している。次いで、卸売業、小売業が20.5 %となっている(「平成25年度障害者雇用実態調査結果」による)。

「変わったところでは、農業もあります。むしろ体を動かすほうが癒やしになるという人もいて、そのような方を雇用している会社もあります。ですから、発達障害者を含め精神障害者の仕事を限定的に見る必要はないのです」(畠山氏)

発達障害の就労は、一人ひとりの特性・適性が異なるだけに本人次第という点も大きい。もちろん、気分がすぐれない日や、コミュニケーションがきつく感じるときは仕方ないだろう。雇用側はきちんと仕事ができるように支援し、就労側は、長く働いてほしいと思われていることを理解して、仕事に臨んでいくことが大事だ。
 

草薙 厚子 ジャーナリスト・ノンフィクション作家

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くさなぎ あつこ / Atsuko Kusanagi

元法務省東京少年鑑別所法務教官。日本発達障害支援システム学会員。地方局アナウンサーを経て、通信社ブルームバーグL.P.に入社。テレビ部門でアンカー、ファイナンシャル・ニュース・デスクを務める。その後、フリーランスとして独立。現在は、社会問題、事件、ライフスタイル、介護問題、医療等の幅広いジャンルの記事を執筆。そのほか、講演活動やテレビ番組のコメンテーターとしても幅広く活躍中。著書に『少年A 矯正2500日全記録』『子どもが壊れる家』(ともに文藝春秋)、『本当は怖い不妊治療』(SB新書)などがある。

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