希薄化する「財政再建」に漂う2020年後の不安 2018年度予算から予測する日本の未来

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7年後には到底間に合わない「人づくり革命」に資金と時間をかけている暇はないはずだ。もともと人づくり革命といったたぐいの政策は、規制緩和を徹底し、企業献金や役人の天下りを禁止すれば自然に実現するようなものばかりだ。深刻な人手不足を解消するのに、これから人を育てていても間に合わない。

東京五輪後の景気後退をどう乗り切るのか?

さらに、気になるのが2020年度には東京オリンピックがあることだ。過去のケースから考えてオリンピックの直後は、大半の国が景気を減速させる。それまでのオリンピック準備が景気刺激策となり、景気は必要以上に良くなり、わずかな期間のオリンピックが終わった段階で景気は大きく減速することになる。

オリンピックのために建てた施設や整備したインフラなどが、負の遺産となって景気拡大を妨げるわけだ。実際に、過去のケースで言えば、景気後退を防げた国はほとんどなく、最大で成長率1%程度の落ち込みを見せている。

さらに、注目したいのはオリンピックによって財政を悪化させた国がほとんどだということだ。ギリシャ、スペインの財政赤字は、オリンピックをきっかけに悪化し、欧州危機の原因のひとつにもなった。

韓国やオーストラリアのように、結果的に改善した国もあることはある。しかし、財政規律を意識した英国(ロンドンオリンピック)のようなケースは稀と言える。欧州危機のさなかという事情もあるが、意識的に財政規律を堅持して、オリンピックを乗り切った。日本の2018年度予算案が、オリンピックを見据えて財政規律を重視したとは到底思えない。

オリンピック後は、景気後退に陥る可能性が高い。最悪の場合は、財政も悪化する。日本政府は、好むと好まざるとにかかわらず2020年度以降は、何らかの形で景気刺激策を意識した一般会計歳出予算を組まなければならない、かもしれないということだ。

すでに、この2018年3月期の「日銀短観」では大企業・製造業の業況判断指数(DI)がプラス24となり、前回調査より2ポイント悪化した。DIの悪化は2016年3月期以来、2年ぶりで、円高、保護貿易主義、人手不足といった悪材料が出たと分析されている。これらの悪材料は、今後も長く続く可能性が高いファクターばかりだ。

アベノミクスの御旗のもとに、フルスロットルで財政刺激策をしてきた安倍政権だが、今後訪れる東京五輪後の景気後退をどう乗り切るのか。円高、保護貿易主義の台頭、人手不足に加えて「金利高」が襲ったとき、日本政府はどんな予算を組むのか。日銀は、さらなる財政ファイナンスを採れるのか……。

東京オリンピックをうまく乗り切れても、その後の団塊世代の後期高齢者化による社会保障費の拡大を乗り切れるのか……。世界情勢同様、日本国内の情勢も大きな曲がり角に差し掛かっている。

岩崎 博充 経済ジャーナリスト

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いわさき ひろみつ / Hiromitsu Iwasaki

雑誌編集者等を経て1982年に独立し、経済、金融などのジャンルに特化したフリーのライター集団「ライトルーム」を設立。雑誌、新聞、単行本などで執筆活動を行うほか、テレビ、ラジオ等のコメンテーターとしても活動している。『老後破綻 改訂版』(廣済堂出版)、『日本人が知らなかったリスクマネー入門』(翔泳社)、『「老後」プアから身をかわす 50歳でも間に合う女の老後サバイバルマネープラン! 』(主婦の友インフォス情報社)など著書多数。
 

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