東芝「再スタート」でも積み残した大きな課題 車谷新CEO「メモリ売却に努力を続ける」

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解除権自体は、「独占禁止法の許可が一定の期日までに得られない場合には互いに違約金の発生しない合意解約とする、というのは普通にある」(M&A実務に詳しい早稲田大学大学院の服部暢達客員教授)。車谷CEOも「解除権の設定はコンティンジェンシト(予想外の事態)への対応の一環で、クロージングは誠実にやる」と強調する。

実際、「会社の経営陣は売却という姿勢で変わらないはず。経済産業省も今のスキームを維持したいと考えている」(経産省関係者)、「現時点でも、東芝の経営陣はディールを成し遂げることで一致している」(主要行幹部)など、方針転換は見受けられない。

ただ「(中国当局の意向は)われわれのパワーの及ぶ範囲ではない。認可が下りなければどうしようもない」(車谷会長)。仮に認可が下りても、厳しい条件を付けられて売却が白紙に戻る可能性もゼロではないのだ。

毎年数千億円の巨額投資が必要

債務超過解消にメドが付いた後も東芝がなぜメモリ売却をやめないのか、そのロジックを整理しよう。現状の売却スキームでは東芝は新生・東芝メモリに出資する。出資比率は普通株ベースで40.2%。東芝メモリは普通株への転換権のある優先株も発行するが、それらがすべて普通株になった場合の東芝の潜在的な出資比率は35.6%になる。

三重県四日市市にある東芝メモリの工場。今後岩手県にも新工場を建設する予定だ(撮影:梅谷秀司)

2018年3月期決算では、東芝メモリは売却を前提として非継続事業扱い(純益にのみ反映)となるが、2019年3月期以降は「持分法適用の可能性が高い」とCFOでもある平田政善専務が説明している。東芝メモリの利益水準が現行並みで続くならば、東芝への利益貢献が少なくとも500億円は見込める(優先配当の詳細が開示されていないため推測値)。

つまり、売却すればメモリ事業から取り込める利益は減るのは確かにデメリットだが、ゼロになるわけではない(とはいえ、これは数値上の利益でしかなく、キャッシュインがあるわけではない)。

メモリは多額の投資を要する事業だ。東芝メモリは2018年3月期だけで5800億円の設備投資を行った(発注ベース)。半導体は空前の活況で製造装置の納期が長くなっており、2019年3月期に予定していた発注を前倒したため。では、2019年3月期は減るかといえば、現状はさらに増える見込みだという。

債務超過を脱出したとはいえ、東芝の自己資本比率はまだ10%台と財務体質が脆弱なままだ。韓国サムスン電子と競って毎年数千億円の巨額投資を続けていくだけの体力はない。

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