品切れも当然「自然派きくち村」が放つ異彩 大ヒットから身を引く「また来年」の考え方

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生産者の言い値が違うため、きくち村では同じカテゴリーの商品であっても値段にバラつきがありますが、生産背景が異なることを考えると、こちらのほうが本来あるべき姿です。

商品ページの動画やテキストを通してこだわりを伝えられるので、一見値段が高く感じられる商品でも、消費者の心をつかむことができれば購買につながります。実際、多くの商品が品切れになっています。

売り残った商品はきくち村で買い取りを行うため、余剰在庫のリスクも軽減できる(写真:ファクトリエ提供)

渡辺さんは「品切れは商品をグレードアップさせるチャンス」としてとらえており、“ごぼう茶” も品切れを起こしている間、原材料となるごぼうが有機栽培から自然栽培に変わりました。きくち村の商品に魅力を感じている人たちにとっては、待ったかいがあったというもの。待つことへの耐性がなくなりつつある今、「来年を楽しみにしてください」というゆとりに粋を感じます。

 自然栽培のすそ野を広げる新技術

渡辺さんは自然栽培の裾野を広げる活動にも取り組んでいます。自然栽培にはクリーンな土壌が必要ですが、化学肥料を使用していた土地には「肥毒層」と呼ばれる肥料の層が残っており、これまでは除去する有効な手段がありませんでした。

渡辺さんが着目したのが、岡山県津山市に本社を構えるRBCコンサルタントという会社が開発した「微生物活性材バクチャー」という技術。自然界が本来持っている微生物の力を活性化させる効能があり、同社は水槽内の水を入れ替えることなく、閉鎖循環型でうなぎの養殖を行っています。

阿蘇外輪山の麓に位置するきくち村。のどかな田園風景が広がっている(写真:自然派きくち村提供)

この技術は水質改善だけでなく、土壌改善や臭気対策への汎用が可能。肥毒層を崩す手立てが見つかったことで、自然栽培のハードルは以前よりも低くなるはずです。

ただ、生産者側の取り組みだけで現状は変わりません。

抜本的な解決方法は「買い方を変えること」と渡辺さんは言います。適正な利益が得られる仕組みをつくっていかなければ、今後も農家は少しずつ減少していくでしょう。

自給率が今以上に下がってしまうと、もし何かのタイミングで諸外国が日本への食料輸出をストップした場合、私たちは食料を確保することが難しくなります。

安心して食べられるものを適正価格で購入することは、未来に対する投資なのです。今自分は何を食べているのか、これから自分は何を食べるべきなのか。改めて見直す時期に来ています。

山田 敏夫 ファクトリエ代表

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やまだ としお / Toshio Yamada

1982年熊本県生まれ。大学在学中、フランスへ留学し、グッチ・パリ店で勤務。卒業後、ソフトバンク・ヒューマンキャピタル株式会社へ入社。2010年に東京ガールズコレクションの公式通販サイトを運営する株式会社ファッションウォーカー(現:株式会社ファッション・コ・ラボ)へ転職し、社長直轄の事業開発部にて、最先端のファッションビジネスを経験。2012年、ライフスタイルアクセント株式会社を設立。2014年中小企業基盤整備機構と日経BP社との連携事業「新ジャパンメイド企画」審査員に就任。2015年経済産業省「平成26年度製造基盤技術実態等調査事業(我が国繊維産地企業の商品開発・販路開拓の在り方に関する調査事業)」を受託。年間訪れるモノづくりの現場は100を超える。

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