シンパで固めたトランプ政権の暴走が始まる いよいよ真のトランプ劇場が稼働

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通商政策について注意する必要があるのは、保護主義に対する防波堤には、論点によって高低があることだ。たとえば、トランプ政権が発動した鉄鋼・アルミ製品への輸入制限措置に関しては、米国内での反論が強い。原材料価格の値上がりなどを通じた米国企業や消費者の負担増への懸念が、保護主義への防波堤を高くしている。

一方で、相対的に防波堤が低いのが、中国に対する攻撃的な対応である。知的財産権の取り扱いなど、中国政府の行動に関しては、米国の産業界にも不満が鬱積している。共和党議員の間には、安全保障面からの脅威を気にする向きもある。自由貿易派であるコーン前国家経済会議委員長も、中国に対する強硬な措置には賛同していたという。

トランプ大統領の曲芸飛行

トランプ大統領の自由度が高まったことで、今後の米国の政策運営は、これまで以上に振幅が大きくなると予想される。「米国第一主義」と並び、トランプ大統領を特徴づけているのは、「ディール(取引)」志向である。強烈に米国第一主義を打ち出しつつも、一方ではディールの機会を狙う曲芸飛行が、今後のトランプ政権の特徴となりそうだ。

もっとも、すべてが困った方向に進むとは限らない。本来であれば、大統領と閣僚の意見が一致することは、外交にとって望ましい。トランプ大統領に信頼されていなかった前任者と比べれば、ポンペオ長官やボルトン補佐官には、大統領の代弁者としての役割が期待できる。諸外国がトランプ大統領と閣僚の意見の違いに振り回される懸念は、以前より小さくなるだろう。

人事の刷新は、実務能力の向上につながるかもしれない。国務省では、トランプ大統領とティラーソン前長官の対立によって人事の整備が遅れていたが、ポンペオ長官の就任によって状況が好転する可能性がある。タカ派の側面ばかりが注目されるボルトン補佐官についても、国務次官や国連大使を経験してきた点を踏まえ、実務能力の高さを評価する声がある。

中には、前例にとらわれないトランプ大統領の手法が、予想外の成果を生むことを期待する向きさえある。米朝首脳会談についてヘンリー・キッシンジャー元国務長官は、伝統的な外交政策の考え方からは導き出せなかった好機であり、「米国が主導権を握り直し、関係国を対話に引き出せるかもしれない」と述べている。

うるさいお目付け役を追い出したトランプ大統領は、意のままに政策運営の操縦桿を動かせる状況を作り上げてきた。さらには、ケリー首席補佐官を退任させ、トランプ大統領自らが首席補佐官役となる構想すら取りざたされているという。曲芸飛行の行き先を知るのは、嬉々として操縦桿を握るトランプ大統領だけなのかもしれない。

安井 明彦 みずほリサーチ&テクノロジーズ 調査部長

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やすい あきひこ / Akihiko Yasui

1991年富士総合研究所(現みずほ総合研究所)入社、在米日本大使館専門調査員、みずほ総合研究所ニューヨーク事務所長、同政策調査部長等を経て、現職。政策・政治を中心に、一貫してアメリカを担当。著書に『アメリカ 選択肢なき選択』(日本経済新聞出版社)などがある。

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