「人工知能」に期待だけを抱く人の3つの誤解 ビジネスマンと開発者でギャップが生まれる

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決裁権限を持つ人に説明に行くと「損失が出たらどうするの?」という後ろ向きの質問や「そもそもディープラーニングって何?」という今さらな質問が飛んでくる。やる気のある人たちは真剣なのだから、分からないならせめて邪魔しないでほしいと思っています。

リスク3:質の高い学習データの不足

最後に、質の高い学習データの不足です。

この3つ目のリスクこそ経営陣が率先して取り組まなければいけないことだと筆者は考えています。海外では、質の高いデータを独占して、付加価値のある学習済みモデルを作成しようとする動きがあります。ハードが制約にならなくなった今、競争の源泉はデータになります。データこそ貴重な資源です。

データをいかに計測し、蓄えるのかを各社が競っています。MicrosoftがSkypeを買収したのも、世界中のあらゆる音声データを入手するためだと言われています。遅ればせながら、スマートスピーカーというサービス経由で、AmazonやGoogleという巨大企業が音声データを入手しようとしています。サービスに人工知能を組み入れて、消費者との接点を持ち、多様なデータを獲得できるデバイスは貴重です。

だからこそIoT(モノのインターネット)と呼ばれる、インターネットにつながる様々なデバイスが注目を集めているのです。IoTのおかげで、実世界でもデータの計測が可能になりました。インターネットの世界だけがデジタルで、一般社会はアナログだと分類できた時代は終わりました。だからこそリアルデータのハードルが一気に下がってきているのです。

ディープラーニングの場合、できるだけ色んな種類のデータが必要になります。それを実現しているデータは、質が高いと言えるでしょう。ビジネスですから、地球上にあるもの全ての網羅は無理ですよね。データの収集にかけられる時間との勝負だとも言えます。どこまでを網羅したらいいのだろうと現場レベルでは悩むでしょう。学習データの精度が、アウトプットの精度にも影響を及ぼします。

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本来なら収集範囲の線引きを「ディープラーニングを理解した人材」が考えると良いのですが、社内にいないから妥当な線が生み出せない。どんなデータを揃えればいいかで1回は躓(つまず)きます。

大半の企業はそもそもデータすら貯めていません。仕事に関するあらゆるデータを貯めるのは、多くの企業にとっては今までに無かった慣習のようです。

データを貯める。なるべくディープラーニングで活用しやすいよう、デジタルな環境に自然と蓄積できるようにする。これは経営者が号令をかけるしかないです。今までと違う業務を新たに始めてくださいという話です。

結局、質の高いデータの準備も、組織を説得するのも、ディープラーニングを分かった人材がいないと速度が出ないというのが今のところの結論です。最大の制約事項である人材が圧倒的に不足しています。

田中 潤 Shannon Lab 代表取締役

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たなか じゅん / Jun Tanaka

アメリカの大学で数学の実数解析の一分野である測度論や経路積分を研究。カリフォルニア大学リバーサイド校博士課程に在籍中にShannon Labを立ち上げるため2011年帰国。人工知能の対話エンジン、音声認識エンジンを開発。開発の際は常にPythonを愛用。編著に『Python プログラミングのツボとコツがゼッタイにわかる本』(秀和システム)がある。

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松本 健太郎 デコムR&Dマネージャー

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まつもと けんたろう / Kentaro Matsumoto

1984年生まれ。龍谷大学法学部卒業後、データサイエンスの重要性を痛感し、多摩大学大学院で"学び直し"。現職では、データサイエンスに基づき、ユーザーの心を捉えたアイデアを引き出す「インサイト」の開発支援に携わる。政治、経済、文化など、さまざまなデータをデジタル化し、分析・予測することを得意とし、ラジオや雑誌にも登場している。

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