跋扈する「道徳自警団」が、日本を滅亡させる 他人の不道徳が我慢できない人たち

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こうした人たちは好景気で、毎年生活水準が上昇する時代には、不道徳ネタに興味を示さない。景気がよければ「週末はどこへ行こうか」「今度何を買おうか」などと考えて過ごす。しかし、景気低迷が続いて収入が増えず、時間をもてあます中で、不道徳叩きを始めるのだ。

不況や停滞期に人間の関心は、不道徳に向かいやすい。中世において経済成長はほとんどゼロだった。技術革新がなかったので、生産性が向上しなかった。人々は迷信を恐れ、西欧では根拠なき魔女狩りが発生した。現世の人間の不道徳によって、疫病や不作といった、「神の罰」が下されると考えた。

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現在の日本は、経済停滞が20年以上も続き、ゼロ成長が延々と続く「平成という中世」と言える。経済が拡大せず、自分の収入が増えず、将来の展望が見えないとなれば、人々の関心は中世と同様、不道徳に向かう。景気低迷が道徳自警団を発生させたのだ。

だから道徳自警団というやっかいな人々は、経済成長によって自然消滅する。経済成長している社会では、個人はみずからの所得を拡大させることを最優先し、いかにして高価な耐久消費財や不動産を購入するか、知恵を絞る。簡潔に言えば、カネさえ増えれば他人の不道徳などどうでもよくなる、というのが人間の本性だ。

貧乏でも幸せ、は間違っている

あまりにも長く経済停滞が続いたため、資本主義は終わったとか、貧乏でも幸せだといった、デフレを肯定する言説が蔓延している。しかし、こんなことを言う人に限って、経済的な成功者であったりする。こういった連中の無思慮な言説に騙されてはいけない。貧乏でも幸せ、というのは間違っている。カネがなくて不幸だから、あるいはデフレが進行する中でカネが増えないという窒息感があるから、他人の不道徳や微罪が我慢できず、怨嗟が増幅するのだ。

仮に年収が400万円であっても、経済が3%成長し、年収がそれにリンクするとすれば、翌年に412万円、翌々年には424万円に上昇する。こうした社会では未来への希望が生まれ、それを実現するために行動するから、他人の不道徳など気にならない。「一定のカネがあれば、たいていのことは解決する」という、資本主義社会の前提に立ち返れば、道徳自警団は自然と駆逐されるだろう。

古谷 経衡 文筆家

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ふるや つねひら / Tsunehira Furuya

1982年11月10日北海道札幌市生まれ。立命館大学文学部史学科卒(日本史専攻)。インターネットとネット保守、若者論、社会、政治、サブカルチャーなど幅広いテーマで執筆評論活動を行う一方、地上波、AbemaTV、ラジオ番組でコメンテーターも担当。大の猫好き。近著は 『「意識高い系」の研究』(文藝春秋 文春新書)、『アメリカに喧嘩を売る国~フィリピン大統領ロドリゴ・ドゥテルテの政治手腕~』(KKベストセラーズ)。

 

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