民主主義は「権威主義の誘惑」を断ち切れるか 中国・ロシアが台頭、欧米は動揺するが…

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権威主義国家のどこにそんな魅力があるのだろうか。

権威主義国家は、最高権力者に政策決定から軍事までありとあらゆる権限が集中する。権力者は自由に意思決定しそれを遂行できる。面倒くさい議会手続きなど無視できる。メディアや世論の反応なども気にすることなくやりたいことをやれる。批判者を「合法的」に弾圧し、政敵も抹殺できることから権力は安定する。その結果、政策を短期間で効率的に企画立案し実施することが可能になる。従ってうまくいけば短期間で成果を上げることができ、国民の不満を解消したり支持を得ることも可能になる。

また、中国やロシアがうまくやっている背景には、冷戦崩壊後に進んだグローバル化した世界経済の果実を巧みに利用している点がある。中国の莫大な貿易黒字とそこで得た資金を使った一帯一路などの対外戦略がその代表的な例だろう。冷戦終焉を受けて欧米先進国が作り上げたグローバル化した世界経済が権威主義国家のエネルギー源になっているのである。

新たな価値を提示できず、復讐心をバネに台頭

そうはいっても権威主義国家には明確な欠陥がある。最大のものは、中国やロシアが自由や民主主義に変わるべき新たな価値を何ら提示していないことである。

プーチン大統領が選挙中に強調したのは、ウクライナ問題などでロシアへの制裁を継続する欧米諸国への対抗心であり、強い国家を作るというナショナリズムである。習近平主席が掲げているのは、「中華民族の復興」と「中国の夢」の実現、2050年の「社会主義現代化強国」の実現という、これまた国民の愛国心、ナショナリズムに訴えた主張である。

その背景にあるのは、虐げられた歴史への復讐である。プーチン大統領は冷戦崩壊後のゴルバチョフ、エリツィン時代を批判している。「ソ連崩壊によって2500万人のロシア人が瞬(まばた)きするほどの間に異国民となってしまった。これは20世紀最大の悲劇の一つだ」と語っている。しかも、EUやNATO(北大西洋条約機構)は米国とともに旧東欧に進出し、ロシアを経済的にも軍事的にも脅かしてきた。その歴史にプーチン大統領は強く反発している。

習近平主席も同じである。1840年に起きたアヘン戦争を機に東アジアで支配的存在であった中国は弱小国へと転落し100年余りの苦しい時代を経験した。「中華民族の復興」は屈辱的な歴史からの解放とともに、中国が再び世界に冠たる国家になることを意味している。

つまり両国にあるのは「欧米諸国に苦しめられた記憶」が生み出す対抗心、あるいはある種の復讐心であろう。そこにはいかなる世界秩序を構築しようとしているのかなどという青写真はない。つまり自国民以外には説得力のない主張であり、他国が範とするような価値でもない。

とはいえ、欧米諸国の混迷を前に、中ロが誇示する権威主義システムは、多くの為政者には魅力的なものに見えている。「民主主義」対「権威主義」という緊張関係は当分、続くことになりそうだ。

薬師寺 克行 東洋大学教授

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やくしじ かつゆき / Katsuyuki Yakushiji

1979年東京大学卒、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸や外務省などを担当。論説委員、月刊『論座』編集長、政治部長などを務める。2011年より東洋大学社会学部教授。国際問題研究所客員研究員。専門は現代日本政治、日本外交。主な著書に『現代日本政治史』(有斐閣、2014年)、『激論! ナショナリズムと外交』(講談社、2014年)、『証言 民主党政権』(講談社、2012年)など。

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