東レが初の大型買収。自前主義から転換へ 炭素繊維と水処理膜、2社で合計1000億円弱
ただこうしたきれいな説明だけでは、見えない点もある。鉄に比べ重さは4分の1で10倍強く、7倍硬い炭素繊維は、いずれ鉄に取って代わると目される夢の素材。だが、コストが高いために足元は用途が限られ、最大手の東レ以外はいずれも苦戦している。2013年3月期を見ると、東レは増収増益だが世界2位の東邦テナックス、レギュラートウで同3位の三菱レイヨンとも営業赤字が拡大した。
ゾル社は12年9月期こそ2285万ドルの営業黒字だが、それまでは2期連続の営業赤字。株価は低迷し、中国メーカーによる買収のうわさがあった。炭素繊維担当の大西盛行専務は「中国メーカーの動きと今回の買収に直接の関係はない」と否定する。
自動車向けに照準か
ではなぜ今買収なのか。米国での大型の受注話が水面下で進んでいるのなら、景色は違ってくる。
ハイブリッドカーで日系に後れを取った米自動車メーカー大手は、炭素繊維による軽量化と、それによる燃費の飛躍的な改善に躍起だ。「自動車への炭素繊維採用にはいろいろな動きがある」(ゾル社のゾルト・ラミー社長兼CEO)。自動車メーカーとの交渉上、さまざまな要求をこなせる生産体制を示す必要があったとみられる。
自動車のボディはゾル社が得意なラージトウで足りる。ところが東レにはラージトウの工場も製造技術もない。そこをゾル社で補完しつつ、自動車向け高機能部品で東レの得意なレギュラートウの受注につなげられれば一石二鳥の戦略になる。
大型買収はこれだけではない。ゾル社買収の発表と同日、韓国の水処理膜会社ウンジンケミカル社の買収で優先交渉権を得たと発表した。東レは逆浸透膜で世界2位。買収によって首位の米ダウ・ケミカルに並ぶ。東レは買収金額を開示していないが、入札のあった韓国では400億円と報道されている。
ゾル社と合わせると1000億円弱。東レは中期経営計画で14年3月末までに2000億円のM&Aを行うとしており、今回の計1000億円でもまだ半分である。自前主義からの転換へ舵を切った日覺社長は、残る1000億円で次にどんな買収を仕掛けるのか。
(撮影:梅谷秀司 =週刊東洋経済2013年10月12日号)
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