30歳貧困男性がアニメ制作会社で見た深い闇 中国に動画制作を依頼する「海外動仕」とは?

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映像制作の仕事をしてみたいと、思い切って入ったアニメ業界だった。正社員だという雇用形態にも魅力を感じた。しかし、海外動仕に特化した仕事では、キャリアにはならないとすぐに気がついた。何より違法な働き方を強いながら、二言目には「営業してよ、営業」「なんで、まだできないの」と文句ばかり言う社長の態度に幻滅したという。

限界は半年後にやってきた。目覚まし3個を使っても起きられない、会社が近づくと腹痛が起きるといった症状が出たので、病院にかかったところ、うつと診断。社長に辞めたいと伝えたが、「代わりの人が見つかるまで働いてもらわないと困る」と拒まれた。この際だと思い、残業代の未払いなどについて指摘したところ、「今、その話は関係ない」とかわされ、その揚げ句に「もうちょっと辛抱しないとだめじゃないか」と、なぜか説教された。辞意を伝えてしばらくしてから、会社に行くのをやめたという。

その後、アニメ産業で働く人たちでつくる映演労連フリーユニオンに加入。労働時間は1日8時間を超えてはならないなどとする労働基準法に基づき、それを超える勤務を残業とみなして計算したところ、毎月の残業時間は100時間、半年間の未払い賃金などはおよそ100万円に上ることがわかった。「本来もらえるはずの金額の半分ももらっていなかったと知り、愕然としました」。

大学2年のとき、授業料を工面できず退学

高校生のときに父親を病気で亡くした。家計は厳しくなり、すぐにでも働きたい気持ちはあったが、高校卒業時、学校側に寄せられる求人の多くはパチンコ店や居酒屋だったという。

「選ばなければ働き口はありました。でも、バイト先のファミレスの店長が明け方まで残業し、本部から売り上げが少ないと絞られて精神的におかしくなっていく姿を見ていたので、飲食業は厳しいなと思ったんです。それに教員になりたいという希望もあったので、なんとか大学は出ようと考えました」

このため、私大の夜間コースに進学。しかし、このときはリーマンショック直後の不況の真っただ中で、一定の収入を得られるアルバイト先がなかなか見つからなかった。奨学金を借りることは、将来の負担になるからと、母親が反対。大学2年のとき、授業料約60万円を工面できず、やむなく退学した。

その後はアルバイトや派遣で生活。マスコミ関連の会社での待遇は比較的まともで、時給1000円で、月収は約16万円だった。仕事は原稿の校正・校閲などで、働きぶりが評価され、新人社員の教育係を任されることもあったという。一方で「比較的まとも」とはいえ、給与は正社員の半分以下。あるとき、同じような仕事をしている正社員がジュンジさんの給料について「僕の半分以下なんてありえない」と言ってくれたこともあったという。

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