会社ではまず元請けのアニメ制作会社に営業の電話をかけて仕事を受注する。その後、車で「素材」といわれる原画やレイアウトなどを取りに行き、会社に戻って中国のスタジオとスカイプで連絡を取りながら、これらの素材をデータ化して送信。中国から戻ってきた作品の出来栄えを確認し、締め切りに合わせて納品するまでが仕事である。
「営業の電話は多いときで1日20カ所ほどかけなくてはなりませんでした」。車を運転するときも、取引先との連絡や中国からの問い合わせに対応しなければならなかったため、携帯電話やタブレットが手放せなかったという。
日本のアニメ制作が海外動仕に頼らざるをえない背景には、下請けに出すことで制作費を抑える目的がある一方で、日本人スタッフだけでは過密なスケジュールをこなしきれないという事情がある。こうした過程では、チェックミスや、外国人スタッフが確保できないなどの事態も発生、放送時の作品のクオリティが激しく低下する「作画崩壊」や、放送延期につながることもあるという。
「海外動仕」の闇は深い
アニメーターの厳しい労働環境はすでに社会問題となっている。さらにこうした海外動仕を担う小さな制作会社も、単価が安く、過密スケジュールのしわ寄せを最も過酷な形で受けることから、早々に倒産していくケースもあり、ある関係者によると、「アニメ産業の中でも海外動仕の闇は深い」という。ジュンジさんの経験もこれを裏付けるものだ。
「アニメ最終回の放送時期が近づくと、元請け会社のほうから電話がかかってくるようになります。締め切りが12時間後というのはザラ。“6時間後に納品できますか”と頼まれることもあります。到底無理なので、出来上がったものから順番に納品するという約束でとりあえず受注し、中国人スタッフにも無理をきいてもらいながら制作を進めます」
時間帯によって濃淡はあるが、元請け会社から素材を入手した後の夕方以降は特に忙しい。動画をスキャンするには1枚につき1分を要するため、たとえば、動画200枚という仕事を受けると、それだけで3時間以上はかかる。時にはスキャン作業をこなしながら、修正が必要なカットの指示を中国人スタッフ向けに飛ばさなくてはならず、気がつくと日付が変わっていることはしょっちゅうだった。
ジュンジさんに言わせると、「元請け会社への営業は本来社長の仕事」。社長は有名なアニメ制作会社での勤務経験があり、人脈もあるはずなのだが、営業は従業員に任せっきり。それどころか、中国人スタッフへの賃金未払いが原因で、仕事をボイコットされるというトラブルが起きたときの対応まで命じられたという。
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