ただ、牛をめぐる状況は、悲しい現実ばかりではありません。2018年1月の「畜産・酪農をめぐる情勢」(農林水産省)のデータをよく見てみると、繁殖農家の数は、2011年以降減り続け、昨年にいたっては(2011年と比較)3割減なのですが、出荷頭数は、1割ほどしか減っていないのです。
これは、肥育牛(成牛に育てる牛)も同じ傾向にあります。つまり、1戸当たりの農家で育てられている牛の数が増えているのです。今までは、畑や田んぼをやりながら牛の繁殖または肥育もする(あるいはサラリーマンをやりながら、という人もいました)家族経営の農家が多かったのですが、経営規模を大きくした専業の畜産農家が増えていると推測されます。
2017年には、大型量販店チェーンのイオンが、和牛の繁殖事業に参入し、鹿児島の繁殖農家の事業を継承しました。40頭の母牛を抱え、2020年までに繁殖から肥育まで手がけた和牛を年500頭肥育するとか。大手が参入することで、市場の安定にもつながると思われるので、今後の動向を見守りたいと思います。
ICT化の活用が広がっている
畜産業は生き物である牛を世話するため、24時間体制の仕事となり、とても重労働。このため、畜産離れが進んだのですが、最近では畜産の世界でもICT(情報通信技術)の活用が広がっています。繁殖農家では、牛が発情したり、分娩が始まると自動的にパソコンやスマホに通知がくるサービスを導入しており、長時間監視する必要がなくなってきています。哺乳も自動で子牛が欲しい時にお乳を与えてくれるので、省力化も進んでいます。
和牛は、確かに高い。でも、本当においしい。和牛は、日本人の手によって、おいしさを追求した日本にしかいない牛種です。そもそも日本人は、海外から渡来したものを、日本人の感性とスキルで日本の文化に最適化するのが得意。牛肉を食べる習慣も元々は海外の食文化が日本に伝わったもの。サシが入るようにする肥育のテクニックは、日本人の知恵と工夫の成果です。
時代に合った経営スタイル、IT技術も取り込んで、日本の食文化のひとつである和牛の味を守り、継承していってほしい。そして、生産者自らがブランドを名乗る時代がきてほしいと思います。
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