米朝トップ会談の目的は「非核化」ではない 批判している人はポイントを間違っている

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北朝鮮の3人の指導者全員の下で働いた経験のある金永南氏は過去に外務次官を務め、1950年に起きた戦争も経験しており、軍の絶対的信頼を得ている。核開発には直接関与していないことを表向きの理由として、米国は彼を制裁リストから慎重に外している。これは、金永南氏は米国に自由に渡航できることを意味する。彼は今後もキープレーヤーであり続けるだろう。

では、次に起こるのは何か。まずは時間をかけて、金正恩氏を信頼し、おそらくトランプ大統領も、限られているが重要な国内強硬派に向けた好戦的な態度と融和的なステップとのバランスを取る必要が出てくるだろう。つまり、ツイートもあるだろうし、後退することもありえるだろう。

北朝鮮の非核化などありえない

2人のリーダーの会談が実現した場合、スポーツや学術交流、北朝鮮に捕らえられている3人の米国人のうちの1人以上の解放、朝鮮戦争の際、北緯38度線で殺された米国人または韓国人の遺体捜索というような、まず着手しやすい事柄から話を進めると思われる。北朝鮮が自ら申し出た核実験の一時停止を延長する可能性があり、米国も予定されている軍事演習の限定的変更に同意するかもしれない。

こうした小さなことから信頼は作られる。そして、最終的に米国とソ連が両国間の緊張を徐々に減らすため、さまざまな兵器の使用停止に至った冷戦スタイルの交渉につながる可能性がある。トランプ大統領と金氏の会談が非核化に至ると考えるのはばかげた考えで、歴史的にみてありえない。

金氏の会談の申し出を韓国が伝えたように、米国は韓国に引き続き主導権を与えるべきだ。トランプ大統領が会談に同意したという発表を韓国の高官を使って発表させたのは米国の計画だった。最終的な平和は韓国と北朝鮮によって作り出される。

結局、両国は最もリスクに直面している。両国の指導者の中には、朝鮮戦争の生存者たちも含まれている。彼らは「wuli、私たち対彼ら」という朝鮮の感覚に基づく強い感情的な絆を持っていて、「私たち」とは朝鮮の人々全体を指す。彼らは自身の大量の死に直面しており、自身の遺産を意識している。これは彼らの今の世代にとって勝つか負けるかなのである。

交渉は必ずしも公平なギブアンドテイクであるとは限らないし、それは弱さを示すものではなく、むしろ強さと交渉力の証しでもある。朝鮮半島での成功とは、冷戦時代のように戦争が起きない状態を続けることと、戦争が起こりえないという感覚を増やすことにより測られるだろう。

トランプ大統領が金氏と会談を行うことを批判し、あらゆる進展に難癖をつける人たちは、外交とは、戦争の代わりとなるもので、無視するのではなく、相手と会うという面倒な行為を意味するということを思い出すべきだ。

(文:ピーター・バン・ブレン)

筆者のピーター・バン・ブレン氏は米国務省に24年間務めるベテラン職員。このコラムは同氏個人の見解に基づいている。
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