マレーシアが中国人旅行客を大歓迎する事情 最大の貿易相手国、春節時期はお祭りムード

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長年マレー系を優遇するブミプトラ政策を掲げつつ、民族間の融和を図ってきたマレーシアだが、このように宗教間の軋轢が顕在化する事案も度々起こり、保守派の勢いも少しずつ強まっている。

チャイナマネー流入 政権も中国重視か

そんな中、マレーシアと中国は確実にその距離を縮めている。近年、マレーシアに対する中国の投資は活発化し、今やマレーシアにとって最大の貿易相手国はシンガポールに代わって中国となり、2016年の対中貿易総額は 834億ドルに上る。ナジブ首相は、習近平国家主席が主導する「一帯一路」構想にも積極的にかかわる姿勢を示しており、鉄道建設などインフラ投資をはじめすでに複数の案件が進められている。

中国にとっては、中東からの資源ルートとして重要なマラッカ海峡が封鎖される事態などに備え、南シナ海とマラッカ海峡を結ぶルートを確保する狙いもある。さらに、中国の電子商取引最大手・アリババの創業者であるジャック・マー氏をマレーシア政府のデジタル経済担当顧問に任命し、EC市場の拡大やデジタル経済の活性化などに向けた取り組みを開始。ナジブ首相は「誰もがアリババと組みたがっているなか、われわれが海外で初のパートナーになった」と述べるなど、中国との連携に緊密さは増している。

もはや、地政学的にもソフト面における国家戦略においても、両国の関係は切り離せない蜜月ぶりを見せるなか、ここへ来て政権復活への意欲を示す92歳になったマハティール元首相は、複数のメディアの取材に応じ、現政権は中国に寄りすぎていると舌鋒鋭く批判し始めている。

クアラルンプール市内でふと頭上を見上げると、春節を祝う電光掲示版にナジブ首相の姿が映し出されていた(筆者撮影)

首都・クアラルンプールで最もにぎわいを見せる繁華街で、ふと上を見上げると、巨大な電光掲示板にナジブ首相の姿がでかでかと映し出されていた。真っ赤な背景に花火が打ち上げられているその画面には、中国語とマレー語で「あけましておめでとう」と春節を祝う言葉が書かれていた。

(※)第3回は、東南アジア随一の発展を遂げた世界の金融国家シンガポールの実情を追う。

海野 麻実 記者、映像ディレクター

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うんの あさみ / Asami Unno

東京都出身。2003年慶應義塾大学卒、国際ジャーナリズム専攻。”ニュースの国際流通の規定要因分析”等を手掛ける。卒業後、民放テレビ局入社。報道局社会部記者を経たのち、報道情報番組などでディレクターを務める。福島第一原発作業員を長期取材した、FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『1F作業員~福島第一原発を追った900日』を制作。退社後は、東洋経済オンラインやYahoo!Japan、Forbesなどの他、NHK Worldなど複数の媒体で、執筆、動画制作を行う。取材テーマは、主に国際情勢を中心に、難民・移民政策、テロ対策、民族・宗教問題、エネルギー関連など。現在は東南アジアを拠点に海外でルポ取材を続け、撮影、編集まで手掛ける。取材や旅行で訪れた国はヨーロッパ、中東、アフリカ、南米など約40カ国。

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