日本のホテル「スマート化」を阻む壁と解決策 簡素化でビジネスホテルへの導入も可能に

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2016年に開業した東京・千代田区にあるザ・プリンスギャラリー東京紀尾井町では、館内から電話配線を全廃。有線LANによるネットワークを張り巡らせ、そこにVoIPを用いた電話システムや海外の高級ホテルがこぞって採用する客室管理システム「INTEREL(インテレル)」を採用するなど、部分的にではあるがスマートホテル化が進んでいる。しかし、事例としては多くない。

INTERELを用いることで、顧客のチェックイン・チェックアウト情報、何らかのリクエストやルームサービスなどの情報が従業員の持つ端末に即座に反映され、ベッドメイクやアメニティのリフィル、照明・空調管理、電動カーテン・電動ウインドーシェード開閉のネットワーク化などが実現されている。照明・空調の設定情報は顧客台帳にも記録され、同系列のホテルを再訪した際には、宿泊客が好む明るさや気温に自動設定しておくといったことも行える。

またこうしたシステムはヒルトンの導入例にもあるように、ホテル会員や宿泊客向けに提供するアプリを使うことで、宿泊客自身が持つ端末からも操作が可能だ。このことは、多言語対応という意味でも大きな利点がある。

「対面でのチェックイン」が義務付けられている

では、こうした既存製品を採用すればいいだけだとも思えるが、実際にいくつかの理由で日本にあるホテルのスマート化は遅れているという。

ひとつは、米国でスマート化が進むきっかけのひとつにもなった、宿泊客のスマートフォンを“ルームキー”にする機能だが、日本では法的に対面でのチェックインが義務付けられており、導入例がなかったことが普及を遅れさせているという指摘だ。

ひとことでホテルのスマート化といっても、実にさまざまなアプローチがあるが、基本となるのはホテル会員向けサービスも包含する予約システムで、このシステムにスマートキー発行機能が加わり、それがIoT化とともに活用幅を広げてきた。もちろん、対面でスマートキーを発行するのであれば問題はないが、こうした制約から重視されていなかったことは否定できないだろう。

またホテルの予約システムは、どの国も国内企業が大きくシェアを握っている。日本の場合はNECが最大シェアを誇っているが、国内のホテル業者向けに事業を行っているため、海外のパッケージ製品と接続するには、まず互換性の問題を解決していかねばならない。

2020年に東京オリンピックを控える日本だが、そうした特殊な事情を除くとしても、現在、さまざまな国で日本ブームが起き、富裕層の間でも日本への旅行を楽しむ人が増えている。日本食や独特のカルチャーなど、「日本は面白い」「行く価値がある」と観光地としての魅力は高まっているのだ。

ところが、富裕層の訪日客が一様に驚くのがホテルなど宿泊施設の“残念さ”なのだ。日本はテクノロジー製品の国だと思って予約しようにも、そもそも高級ホテルのキャパシティが少なく、さらにホテルランクを下げようものなら、ガクンと設備の質が落ちる。

高級ホテルでも、ザ・プリンスギャラリー東京紀尾井町のような事例は珍しく、ほとんどの顧客が古臭いシステムを導入したまま更新されていないホテルに泊まることになる。

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