日本のホテル「スマート化」を阻む壁と解決策 簡素化でビジネスホテルへの導入も可能に

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海外でラグジュアリーホテルを中心とした、ホスピタリティ向上、体験の質向上といった方向でスマート技術が導入されている例が増えている。

たとえばヒルトンは会員向けサービスを集約したアプリ「Hilton Honors」を開発し、予約や事前チェックインを行えるようにしてきた。部屋の位置なども予約クラスなどから可能な範囲で、アプリ上で選択することができる。

ヒルトンが提供する「Hilton Honors」。日本では現在は予約のみ(編集部撮影)

チェックイン時、あらかじめルームサービスを注文しておいたり、必要な設備やアメニティの手配も行える。チェックイン後に電話で手配するのではなく、空港や駅からの移動時間にリクエストできると好評だが、さらに「Connected Room」というアプリを使うことで、部屋の照明、空調、AVシステムなどをコントロールできる。

ホテル設備のスマート化は省力化にもつながるため、今後の導入が増えていくことは間違いない。さらにそれをアプリで統合し、将来的に会員向けサービスと連動する予約システムに結びつけることで、宿泊客とホテルブランドのエンゲージメントを高めようという狙いだ。

上記はヒルトンの例だが、スマートフォンとの連動は数年前から広がっている。そのスタート地点は予約システムと連動するスマートキーソリューションだ。

好みの室温などをチェックインの前に設定

あらかじめ予約情報をアプリに登録しておけば、客にレセプションでチェックインの列に並んでもらわなくとも、ホテル側はGPSで宿泊客の位置を確認できる。物理的な鍵の受け渡しに代わり、NFC(近距離無線通信)などを使用したカードキーを自動的に発行し、部屋に入室させる機能は以前から存在したが、こうしたシステム連動の幅はさらに広がっている。

たとえば部屋に入るとウェルカムメッセージとともに館内の案内がディスプレーに表示されたり、同系列ホテルを繰り返し利用するリピーター客に対しては、前回宿泊時の情報から好みの室温、湿度、音楽、照明の明るさなどをチェックインの前に設定し、最適な環境を整えてから顧客を迎えるホスピタリティが提供される。

家庭内のさまざまな設備がネットワークにつながり、スマートホームソリューションが次々に生まれ、スマートスピーカーの普及をきっかけにさらに市場が拡大しているが、それはホテルのようなホスピタリティ業界も同じということだ。新築のホテルにしろ大規模リノベーションのケースにしろ、ホテル設備の刷新とともにネットワークにつながるのは“当たり前”という状況が進行している。

もっとも、日本のホテル業界を見渡すと、こうした顧客体験の質を高めるためにスマート化を進めている例は少ない。

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