「のぞみ」台車亀裂、2つの原因は"人災"だった 製造、運行管理、得意の「現場力」でミス続発
ところで、台車枠が薄くなっただけではこれだけ大きな亀裂が生じることはない。超音波で傷を調べた結果、台車枠底面と軸バネ座の溶接部分に長さ4~5mmの微細な傷が生じていた。おそらくは溶接の工程でできた傷だ。これは必ずしも致命的ではなく、「品質管理をしっかりしてほしいというレベルの問題」(JR西日本の平野賀久副社長)。この程度なら台車枠の底面に十分な厚さがあれば傷の進行は防げるので、運転に支障はないという。
だが、運悪く台車枠の底面が基準より薄かった。わずか4~5mmの傷は10年かけて、JR西日本が定期的に実施している検査をすり抜け2~3cmにまで広がった。トラブルが起きた昨年12月11日の朝の検査でも見逃されたことを考えると、その日の運行開始後に亀裂が一気に拡大した可能性がある。これがJR西日本が推定する亀裂発生のプロセスだ。ちなみに川重は、溶接時の傷と亀裂との因果関係については「あくまで可能性の1つ」と発言するにとどめる。
もう1つのポイントは、異常を知りながら、なぜ運転を続けたのかということである。その点について、JR西日本は車掌やパーサーに加え、車両保守担当者3人、および新幹線総合指令所の担当者3人への聞き取りを行った。聞き取り結果を要約すると、台車に亀裂が見つかった13号車では、車掌やパーサーが博多出発直後に異音や異臭を感じ、指令員に報告。指令員は車両保守担当者3人を岡山駅から乗車させて、確認作業に当たらせた。
最も重要な発言を聞き逃した
保守担当者3人は13号車の音や「床下からビリビリ伝わる振動」が気になったとしている。パーサーは13号車の客室内に「もや」がうっすらとかかっていると感じ、床下の音については「うるさく感じるほど大きい」と発言している。その後の岡山―新神戸間における保守担当者と指令員のやり取りは以下のとおりだ。
保守担当者「床下を確認したい」
指令員「走行に支障があるのか」
保守担当者「そこまではいかないと思う。見ていないので現象がわからない」
別の保守担当者「モーターが少し大きい音を出している可能性がある」
保守担当者「安全を取って新大阪で床下をやろうか」
この「床下を確認したい」という最も重要な発言の直前、指令員の上役に当たる指令長が、指令員に対して現状の報告を求めたため、指令員は受話器から耳を離して、「ちょっと待ってください」と発言した。つまり、指令員は保守担当者の「床下を確認したい」という発言を聞いていないわけだ。逆に指令員の「ちょっと待ってください」という発言を、保守担当者は、新大阪で床下点検の準備をするためちょっと待ってほしいという意味だと解釈した。
そして、指令員は指令長に対して「床下から音はしているものの運転には支障がない」と報告し、運転が続行された。
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