それでは仮にバランスシートの3分の1に当たる1.5兆ドル分の米国債及びMBS(住宅担保債券)が売りに出された場合、果たして市場は吸収しきれるだろうか。たちどころに資金が枯渇して長期金利が上昇し、大混乱が生じてしまうのではないだろうか。
こんな状況に飛び込んできたのが、トランプ政権による大胆不敵な経済政策であった。まずは減税を向こう10年間で1.5兆ドル。それを決めたうえで、今度はインフラ投資を向こう10年間で1.7兆ドルと言っている。民間資金も利用すると言うけれども、さすがにおカネが逼迫しそうに思える。
今年は秋に中間選挙を控え、共和党は防衛費の増額を目指し、民主党は大型のインフラ投資を望んでいる。政治家が具体的な成果を目指すほど、財政赤字は拡大する。勢い米国債は大量増発時代を迎えることになる。これから出口政策の本番を迎えるパウエル議長としては、「ようやく金融政策を正常化しているのに、余計なことをしてくれるな!」と心の中で叫んでいることだろう。
もっとも拡張的な財政政策は、実体経済にはプラスと見ることもできる。景気が改善し、完全雇用に近づいている中で減税とインフラ投資を実行した場合、さすがに賃金は上昇するだろう。ことによるとトランプ支持者、いわゆる「忘れられた人々」に対して大いなる恩恵をもたらすかもしれない。
ただし、「良いニュースで売り、悪いニュースで買う」投資家たちにとっては、これは不本意な展開である。彼らはもっと「適温経済」をエンジョイしていたい。株高を望んでいるトランプ大統領自身の手によって、相場が崩されていると言ったら気の毒だろうか。今回の相場に敢えて「戒名」をつけるとしたら、「トランプ崩れ」というのはどうだろうか。
一時的に安くなった「ドル資産」に投資するチャンス?
アメリカは一足先にQEからの出口政策に踏み切ったとはいえ、先行きはまだまだ視界不良。他方、日本では2月16日、「黒田東彦総裁、雨宮正佳副総裁、若田部昌澄副総裁」という次期日銀執行部の国会同意人事案が提示された。黒田総裁はこの春から2期目の体制に入ることになる。と言っても、今の超・緩和路線は当面続けられるだろう。「出口政策」を語るには早過ぎる。それでも次なる5年間の任期のどこかで、軌道修正が行われることは想像に難くない。現在の米国経済はその貴重な先行指標ということになる。
まことに困ったことに、先行指標である米国経済の方が、日本よりも規模がはるかに大きい。彼らが失敗すれば、われわれも影響を受けてしまう。リーマンショックから今年で10年。実体経済は多少良くなったとはいえ、金融政策の「出口」は前途遼遠だ。新任のパウエル議長と2期目の黒田総裁は、任期中にどこまでたどり着けるのか。
まあ、そんな偉い人たちのことはどうでもいい。投資家の立場として、現状をどう受け止めればいいのか。長期金利が上がる、ということは米国債の値段が下がることを意味する。従って時価会計を意識する機関投資家は手を出しにくい。逆にそんなことを気にしなくていい個人投資家にとっては、ドル資産を仕込むチャンスであるかもしれない。今は一時的に円高に振れているけれども、年後半には日米金利差拡大で円安に向かうだろう。
いつの時代もピンチとチャンスは裏表。不要だとは思うが、くれぐれも投資は自己責任で、というお決まりの文句を付け加えておこう。
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