マップ、携帯、アプリ…変貌を続けるネットの”神”・グーグル
一方で、広告主に対しては広告の成果を詳細に分析する「グーグル・アナリティックス」を提供。より細かいデータを提供すればするほど、広告主はおカネを使う傾向があるという。
“花形”の広告チームだが、その仕事は地道な作業の連続だ。何かあればすぐに手直しする。試してダメなら、データを分析してまた試す。まさにグーグル方式。「ここ最近は1週間に一度は改善している。決して大きなものではないけれど、小さければ承認にも時間がかからないし、すぐに反映できる。その積み重ねでアドワーズはここまで進化してこられた」とフォックス氏。
夢はユーザーが広告を目的としてグーグルを訪れることだ。「ラリーも『検索結果より優れた広告を掲載してくれ』と期待してくれている」。
次なる収益柱となるか 世界を驚かせる新事業
「何だこれは。うちが丸見えじゃないか! 」。先月、日本で始まったあるサービスがネット上で瞬く間に話題になった。「ストリートビュー」。従来の平面の地図をクリックすると、その場所と周辺地域の写真があたかもその場に立っているかのように立体的に写真で表示されるサービスだ。
メインキャンパスから通りを隔ててすぐの新しいビルに仕掛け人はいた。ジョン・ハンキ氏。今やグーグルの一つの顔となった「グーグル・アース」や「マップス」などを仕切るディレクターだ。グーグルのロゴ入りパーカを着て登場したハンキ氏はいかにもグーグラーだ。
同氏が衛星を利用した3D地図ソフト開発のキーホール社を設立したのは01年、03年のイラク戦争ではその映像がCNNなどで使われ世間の度肝を抜いた。グーグルが話を持ちかけてきたのは04年。「これだけのインフラがあればキーホールのサービスももっと多くの人にリーチできると思った」(ハンキ氏)。
キーホール買収には逸話がある。同じ頃に買収案件として挙がっていたピカサについて取締役会で話し合っている途中、突然ブリン氏がプレゼン用のパソコンをジャック。そこへキーホールを表示して、そこにいた取締役の住所を入力して見せたのだ。それが買収につながった。「サーゲイもラリーも地図情報は検索の違う形と考えていたようだ」(同)。
グーグルに吸収されたキーホールは05年にグーグル・アースのサービスを開始。一方で、一足先にサービスを始めていたグーグル・マップスではストリートビューのほか、ユーザーが自ら撮った写真や情報を添付する機能など改良を加えてきた。
「当初はグーグルの一部になれば100万人のユーザーを獲得できると興奮していたけど、今では4億人以上が使っている。だけど、それよりすごいのはユーザーが情報を足していくたび情報が充実していくことだ。これはグーグルに買われなければなしえなかったことだろうね」(同)。
マップスはサービス中でも、収益化につなげやすいとみられている。もともと、地図自体、検索との連動性が高いうえ、ユーザーが住所を打ち込んだ近くのホテルやレストランを探している可能性が高いからだ。しかも、地図は世界中どこでも需要があるという強みがある。すでに一部では広告表示を開始。たとえば「ニューヨークホテル」と打ち込むと、地図と同時に周辺ホテルの位置を示すほか、画面上にスポンサーの広告を掲載する(広告はマウスでポイントすると表示される仕組み)。
もっとも「収益化はとても慎重に進めている」とハンキ氏は言う。「今より稼ごうと思えばそれもできるが、ユーザーにとって役に立つ、質の高い広告を提供できるかどうかが大事だから。経営者たちもそれを理解してくれている」。
山ほどあるサービスの中で、急激に存在感を増しているのが法人向けのサービスだ。広告に比べればまだ規模は小さいが「すでに黒字化しているし、グーグルにとっては広告以外の収益柱として、今後10年、20年と大きな成功が見込めるビジネスだ」とエンタープライズ事業社長のデイブ・ジラールド氏は胸を張る。
セールスフォースと挑むマイクロソフトの牙城
現在、法人向けの「グーグル・アップス」は、メール、スケジュール管理、チャット、表計算、文書作成ソフトをセットにした「スタンダード版」(無料)、セキュリティ機能などを加えた「プレミアム版」(ユーザー1人当たり年50ドル)のほか、教育機関向けの「エデュケーション版」(無料)がある。メールはGメールを利用するが、ドメインは「@希望のアドレス」にできる。このほかに、単独でアースやサーチの法人向けソフトも扱う。
専門スタッフやサーバー管理などのメンテナンスをしなくていいため、企業にとって「メールだけでも従来のコストの110分の1に削減できる」(ジラールド氏)ほか、目の厳しいコンシューマー向けに作られてきたサービスだけに使い勝手も優れている。ネットの接続環境さえあれば、どこからでもアクセスでき、インストールはたったの15分。「こうした強みが口コミで広がっていって利用者拡大につながっていく」(同)。