宮内省内匠寮は当時最高の建築設計の職能集団で、現在の迎賓館(赤坂離宮)をはじめ、数々の宮家の設計を担当している。権藤は当時のエリート建築家として、大正末には欧米の貴族住宅や、朝香宮夫妻も訪れたアール・デコ博の視察にも行っている。この邸宅内をラパンがデザインした部屋と、それ以外の部屋とを意識しながら巡ると、宮内省内匠寮の技量の高さを改めて実感する。
美術館となってから今年で35年になるこの建物だが、2011年から約2年かけて修復を行い、本館裏に展示室を備えた新館を設置。2015年には国の重要文化財に指定された。
関東大震災後に建てられた邸宅には、倒壊しないように構造や壁の厚さを必要以上に丈夫に造っているものも多く、この建物も診断したところ、大規模な耐震補強は必要ないことがわかった。インテリアや装飾品に関しては、大広間に続く次室(つぎのま)にある香水塔の修復、2階の「殿下の居間」の壁面の竣工当時への復元などが行われた。
邸内にはアール・デコのインテリアとマッチした家具が創建時からあったはずなのだが、その多くは、建物の主が代わる度に徐々に失われ、1981年に西武鉄道から東京都に建物が売却された際には、建物のみの引き渡しという条件で、内部に家具のない状態だったという。その後、美術館になってからは、館内にあった家具の一部が西武鉄道から寄付されたほか、図面から復元するなどして30点以上の家具を修復、復元してきた。
モダンな装いの新館
新館の建物には、「ホワイトキューブ」と言われる白い天井、白い壁の展示空間が設けられ、美術家の杉本博司がアドバイザーとして参加。新館と本館の連絡通路には杉本のデザインで三保谷硝子店製のガラス壁があり、その表面の凹みの影が太陽の傾斜の角度によって、ハート型になったりうろこ型になったりする現代アート的な空間も見られる。
今回久しぶりにこのアール・デコの館を訪ねたが、修復を経て建物は美しく甦りさらに魅力を増している。そしてここは、何度訪ねても新たな美を発見できる場所であることを実感した。
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