「額賀降ろし」の裏側は総裁選「闇仕合い」だ 平成研は会長交代で安倍3選支持の白紙化も

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吉田氏の退任要求をいったんは拒否した額賀氏だが、その後の衆院組の意見聴取で派内の厳しい雰囲気を知ると、「(進退は)最終的に私が判断する。時間をかけないで結論を出すことが大事だ」と早期会長退任の可能性もにじませた。後継候補の竹下氏は「派を割ってはいけないし、割れない」と円満決着を目指す構えで、参院側では「額賀名誉会長、竹下会長、茂木会長代行」という新体制が取りざたされている。額賀氏に「名誉ある撤退」の道を開き、総裁選出馬の意欲もみせる茂木氏を同派のポスト安倍候補として認知することで派の結束を維持・強化する構想だ。

2月1日の派閥総会もボイコットした吉田氏ら参院組は「額賀氏が早期に退任を決断しなければ、派を離脱する」と押しまくる構えで、衆院組からも「派の結束維持のためにも額賀氏の退任しか道はない」(若手)との声が広がる。これまで、派内から退任論が出るたびに「分かった、よく考える」と言を左右にして会長にとどまり「まるで『辞める辞める詐欺』みたいだ」と揶揄されてきた額賀氏も、「今回ばかりは絶体絶命」(派長老)の状況とみられている。同派は9月の総裁選に備えて3月14日に派閥の資金集めパーティを予定しており、吉田氏らはこの派閥パーティを新体制のお披露目の場とすべく、額賀氏の早期決断を迫る構えだ。 

今は昔、「自民最強軍団」の落日も浮き彫りに

こうした同派の動きに、「ポスト安倍最有力候補」とされる岸田文雄政調会長が領袖の岸田派も警戒心を露わにする。岸田氏が9月の総裁選での出馬を決断しても、平成研が石破支持に回れば第1回投票で岸田氏が3位となる可能性が強まるからだ。岸田派内では「そもそも、岸田派の多数派工作の基本には、派閥の大先輩の大平正芳、鈴木善幸両政権誕生の原動力となった当時の大角連合(旧大平派と旧田中派の連携)の再現を目指すべきだ」(幹部)との声もあるだけに、「平成研が石破氏支持に傾けば、岸田氏の総裁選出馬見送りに直結しかねない」(若手)との危機意識もある。

こうしてみると、「今回のお家騒動で、逆に額賀派の存在がクローズアップされた」(自民長老)という皮肉な見方もある。ただ、自民党内で「金竹小」と恐れられた故金丸信元副総裁、故竹下元首相、小沢一郎元幹事長(現自由党代表)の3氏で党運営や総裁選を牛耳っていた時代に比べれば「党内への影響力は桁違いに小さくなった」(額賀派幹部)のは否定しようがない。「新体制になっても、所詮は党内第3派閥」(同)という現状は、旧経世会時代に「数とカネ」を誇示する最大派閥として自民党政治を壟断(ろうだん)し、「一致結束・箱弁当」の戦闘力で他派閥を恐れさせた自民最強軍団の落日も浮き彫りにしている。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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