消費増税でまた混乱 法人減税強行の内幕 消費増税決断も、なぜか減税メニューが急浮上

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その後も、消費税と関係なく減税が繰り返されてきた。たとえば86年に43.3%だった法人税の基本税率は2000年代には30%まで低下(現在は25.5%)。リーマンショック前の景気拡大期に当たる06年度、日本の法人全体の税引き前当期純利益はバブル期の40兆円弱を凌駕する50兆円弱に達したが、法人税収は15兆円と、バブル期の19兆円を上回ることはなかった。

個人所得税収もピークの半分程度まで減少。その結果、一般会計税収全体では、消費税が加わったにもかかわらず、90年度の60兆円に対し、06年度は50兆円にとどまった。

今さら言うまでもなく、現在、名目GDP(国内総生産)比で2倍に達する日本の公的債務残高は、世界最悪の水準にある。金利が数%上がれば利払い費の増加で財政がパンクする危うい状況だ。その中で、今回の消費増税の目的が財政再建であることは誰の目にも明らかだ。

肝心の財政再建が置き去りの懸念も

しかし、安倍首相が法人減税に固執することで、肝心の財政再建が置き去りにされかねないという懸念が広がっている。

本来なら5兆円の経済対策も実施すべきか議論の余地があるはずだ。15年度に基礎的財政赤字の対10年度比半減を目指す政府の中期財政計画には、相当程度の税収の自然増と歳出削減が織り込まれている。大幅な経済対策を実施すれば、財政計画に狂いが生じる可能性がある。ましてや25兆円の財源を確保した復興予算も、除染や汚染水対策など東京電力関連の費用膨張で必要額が膨らむかもしれない。

こうした中で、経済対策が正当化されるのは、来年4~6月に予想される消費増税前の駆け込み需要の反動減を平準化させる必要があるからだ。消費増税が実施されても景気の落ち込みが小さければ、8%から先の消費増税に対する国民の抵抗感も和らぐ可能性がある。消費や投資の底上げに即効性のある公共事業や低所得層への現金給付などの一時的な歳出増や、企業投資減税の実施は、反動減の緩和のためにはやむをえないという声は強い。

しかし、復興特別法人税の廃止はどうか。企業が法人税の軽減分を投資や賃金の増加に回すかは、民間の経営判断に委ねられており、まったく不透明だ。復興特別法人税廃止は消費増税の反動減対策にはならず、単に財政再建効果を減殺するだけに終わりかねない。

これに対し、安倍首相は「復興特別法人税の廃止は企業の活力を維持するために必要だ」と主張する。つまり復興特別法人税廃止を、消費増税の反動減対策でなく、成長戦略のための税制改正と位置づけている。

こうした動きをリードするのは、産業界の意向を受け成長戦略を担う経済産業省だ。経産省出身で、首相の右腕といわれる今井尚哉政務秘書官らがその実行部隊といわれ、復興特別法人税の廃止だけでなく、法人税の実効税率引き下げも経済対策メニューに入れようとしている。

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