地元の人でさえ困難である、衰退する地域の課題を解決するための事業開発を、地元に縁のない若者に求めているにもかかわらず、この条件はあまりに不十分な金額です。しかも、何かあったとき、将来についての補償などはないばかりか、事業立ち上げのリスクなどは「起業家」と呼ばれる若者たちが、自ら負うわけです。
もちろん「十分なおカネを最初から保障せよ」と言っているわけでは毛頭ありません。こうした不利な条件にもかかわらず、「地方にいけば起業ができる」、「当座の生活費は心配いらない」といった甘い言葉で若者を誘い込む。しかも、実際は、彼ら彼女たちのような「起業家」に配る予算よりも多くの予算を、「胴元」である自治体やコンサルタントがとるという仕掛けは、あまりに不健全と言えます。
実は、若者に不利な条件を押し付け、「自己責任」の号令のもと事業に取り組ませるという仕掛けは、過去にも「新規就農者支援」「新規漁業従事者支援」など、多様な形で取り組まれてきました。しかし、その多くが若者たちを事実上「使い捨て」にしてきています。地元出身の若者たちが地元を離れていくのは、このように、若者たちに「平気で不利な条件を強いる構造」が一因であることを忘れてはいけません。
地方が、本当に事業を興して地域課題を解決したいのなら、制度を活用した「予算という名の、人のおカネ」しか出さないのではなく、地元の人々が、「自分たちの財布」からおカネを持ち寄って、起業家が必要とする金額を投資するという前提が求められます。
地元の既得権者との摩擦を調整する覚悟はあるのか
(2)地方は「革新的事業は当初は不都合」だと理解できるか
起業家が地域の課題を解決する際には、本質的な事業であればあるほど、地元の既得権者との摩擦が起きます。
従来とは異なる販路を開拓したり、新しい観光客を次々と呼び込み、従来とは異なる変化が地域にもたらされるのは、ある意味では地元にとって不都合なことでもあります。
たとえば、私のまわりだけでも、地方で起業しようとして移住した若者が空き家や、使われなくなった公共施設を活用した事業を提案しても「すぐに使えるかは、持ち主と相談してくれ」とか「町内会との調整をすべて済ませてから事業に取り組んでもらわないと困る」などと言われ、苦労している話をたくさん聞きます。こうした場合、施設を使わせなかったり、あろうことか、使っていたのに急に追い出されることなども多々あります。
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