アップルが「米国内投資加速」を宣言した事情 トランプ政権との「歩み寄り」を象徴している

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アップルが今回のように米国投資を強化する姿勢を示した同じタイミングで、アマゾンも、北米に第2の本社を設置することを発表している。カナダ1都市を含む20都市を候補に挙げ、50億ドルの投資と5万人の好待遇の雇用を創出する計画を示している。

シリコンバレー企業における米国投資のアピールは、人種多様性や気候変動などの諸問題で関係が冷え込んでいたトランプ政権とテクノロジー業界の歩み寄り、と見ることができる。

トランプ政権は、法人減税策とともに、海外に滞留する資金をアメリカに環流させる際の税優遇策、いわゆるリパトリ減税を実現させた。リパトリ減税は2005年に一度行われており、その際には3000億ドルが米国に還流したといわれている。その後も、シリコンバレー企業は繰り返し、リパトリ減税の実施を訴えてきたが、オバマ政権では実現しなかった。

ところが、ようやく、これが実現する。海外子会社に滞留する資金を還流させることができれば、資金活用の幅が広がり、結果として米国への投資を増大させることができるわけだ。

アップルは2500億ドル以上の資金が米国外にあるが、そのうちの一部を米国に持ち込んで米国投資に活用するとみられる。どれだけの割合が米国外のキャッシュによって賄われるのかは明らかにされていないが、相当の資金が米国に還流するとみられる。

ただし、アップルをはじめとする企業がこれまでグローバルビジネス展開において活用してきたタックスヘイブンと、これに対するEUによる追徴課税の問題が解決したわけではなく、引き続き、EUと米国のテクノロジー企業との間での利害対立は継続することになる。

日本企業への影響は?

アップルは現在、設計やデザインなどを米国で行い、世界中から必要なパーツを調達し、中国、ブラジル、インドなどの新興国で組み立てて世界に出荷する体制を取っている。結果として、サプライヤーもアジアに集中しがちとなっており、「世界で最も有名な米国企業の製品が、米国内で製造されていない」としてトランプ大統領の批判の標的にもなってきた。

こうした批判を巧みにかわすための姿勢として、アップルは製造業への直接投資を見せているが、アップル製品の技術的な優位性を高めることになり、汎用的なパーツを集めて組み立てる他社製品に対するアドバンテージを作り出す効果も見込める。結果的に、iPhoneの競争力強化へとつながるのだ。

テキサス州の工場で垂直共振器面発光レーザーを製造するスタッフ(写真:アップル)

アジアで製造する現在の態勢を作り上げたのは、スティーブ・ジョブズ時代にIBMからアップルへ移り、現在CEO(最高経営責任者)を務めるティム・クック氏だった。

現状、この態勢を崩して製造拠点を米国に移すだけの合理的な理由は見いだすことができない。しかし、トランプ政権下での製造業振興策は、ジワジワと日本を含むアジアのサプライヤーに影響を与える可能性がある。

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