「無人化」を目指すトラック隊列走行の現実味 人材難の物流業界は期待と安全面の懸念交錯

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ただ実際には、独立して走行している車両を“1台”と見なす考えには違和感がある。懸念されるのは、万が一事故が発生した場合の責任の所在だ。たとえばレベル2であれば運転の責任は運転手にある。後続車で事故が起きた場合、直接的に操舵・制御をしていない先頭車の運転者が責任を負わされる可能性があるということだ。また、システムの不具合やトラブルが起きたときに無人の車両の安全性をどのように確保するのかという問題もある。レベル1の技術である被害軽減ブレーキ(自動ブレーキ)を搭載した乗用車でさえも誤作動による事故が発生している。

こうした自動運転に関する道路交通の安全上の課題や責任問題などについては、「今では自動運転の推進派である」(前述の須田教授)警察庁交通局が中心となって有識者会議を積極的に開催している。その中で議論がいっそう深まっていくことを期待したい。

物流業界からは安全性に懸念の声も

では実際にトラック隊列走行の技術を“活用する”物流業界側は、こうした動きをどう見ているのか。全国の運送事業者の約8割が加盟する全日本トラック協会の齋藤晃・広報室長は「人手不足が深刻化している中、新技術を1つの選択肢として期待している。ただ、電子的な連結の安全性は本当に大丈夫なのか気になる」と率直に語る。

後続車が無人のトラック隊列走行は実用化されるか。人手不足が年々深刻になっている物流業界は、高い関心を示している(写真:豊田通商)

また実証実験が行われた静岡県を地盤に運送業を営むアトランスの渡邉次彦社長は、「国が隊列走行の活用を想定しているのは大手事業者だと思うが、車両台数40台程度のわれわれのような中小事業者にとっても人手不足は大きな課題。安全性に問題がないならば実用化に期待している」と話す。

トラック隊列走行の実用化が人手不足の解消や物流コスト削減などに寄与する可能性はある。ただ、それには絶対的な安全性の確保が前提になる。特に重い荷物を積んで長距離輸送を行うトラックは一歩間違えば大事故につながるため、乗用車以上に高い技術力が求められるといえる。安全性よりも省人化や燃費改善が優先されることがあってはならない。

高見 和也 東洋経済 記者

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たかみ かずや / Kazuya Takami

大阪府出身。週刊東洋経済編集部を経て現職。2019~20年「週刊東洋経済別冊 生保・損保特集号」編集長。

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