アドテクの「ジーニー」が描く世界戦略の中身 工藤智昭社長にロングインタビュー
工藤:創業当時に方針を決める時にみんなで議論して決めたんですが、当時のカオスマップ(インターネット広告市場の業界地図)を見ても、DSP、SSPといろいろある中で一番重要なのはSSPだと僕らは考えました。SSPによってメディアのマーケットシェアを取ったあとに、メディアのデータやユニークな広告枠を使うことで、DSPなどの他の展開もしやすくなると考えたからです。世界の会社でDSP単体では厳しいところが多かったので、戦略上SSPが最終的に有利になるだろうと思いました。
村上:SSPからDSP、自動化へと展開する戦略も当初から想定されていたのでしょうか?
工藤:2013年頃に自分たちのプロダクトを全て、再度生み直そうとなったタイミングがあって、その時にこの戦略を考えました。
村上:きちんとマネジメントさえできれば、アドテクの会社としては複数プロダクトを揃えて広告主の面を取りに行ったほうが有利だと思われたということですね。
工藤:はい。データの面でもビジネスの面でもスケールメリットが働きますからね。今、我々のプロダクトが扱うのは800億インプレッションくらいなんですが、30億とか40億だったときと比べると、発注したいとか入札したいとかいう広告主さんの量が圧倒的に増えました。スケールメリットを追求するとそうなるんだと思います。
村上:とはいえ、複数のプロダクトをラインアップすると、パイプラインマネジメントやファイナンスの工面が難しくなってくると思うんですが、そのあたりはどう対処されてきたのでしょうか?
工藤:新しい機能を制作したら、一つひとつちゃんと利益が出るまでマネジメントしていくようにしていますね。作ったものをきちんと価値を出して継続的に使ってもらえる状況までこだわってやっていきます。成功しないなら早期にやめ、リソースは割きません。そうやってプロダクトごとに開発競争も勝ち抜いて一定利益が出ている状況にする。既存プロダクトで利益が出ている状態を担保した上で、次のプロダクトを生み出すということをやっています。
技術と経営の両輪を回す
村上:アドテクのような技術が重要な業界では、相対的にビジネスがなおざりになってしまう落とし穴があると思います。そんな中、工藤社長は早い段階から「経営」という言葉を使って、両輪でやるんだ、ということを強調されています。技術と経営について創業時からどんなことを意識されてきたんでしょうか。
工藤:リクルートでは主に営業戦略と商品戦略を経験したのですが、技術の会社をやるには営業と商品の戦略に加えて、技術の方針を中長期の戦略と同時に作っていくべきだという思いが最初からありましたね。それを今、少しずつ体現していっている感じです。
村上:なるほど、リクルートでの経験が活かされているのですね。中長期のトレンドを読むことも意識されている。
工藤:そうですね。技術と経営のミックスでは、経営会議に技術のヘッドを何人も参加してもらっています。動画でもネイティブアドでも、新しい分野において、結局商品の力というのは技術の力半分とビジネスの力半分だと思っているので、ビジネスの深い話もエンジニアと共有しながらプロダクトを生み出すほうが強いと考えています。そもそもビジネス側が新しい商品を作りたいと思ってもすぐできるものではないし、商品をどう安くできるか、安くするためのコアの技術は何かというのは技術上の勝負の話なので、それなしにビジネスの勝負の話はできないですよね。