2018年、ギリシャ債務問題の再燃に注意 みんな忘れているが、本当に大丈夫なのか

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その懸念事項とは、ギリシャ債務問題の解決に努めてきたEU側のキーパーソンが続々と引退することだ。

2017年9月のドイツの総選挙の結果、ユーロ圏財務相会合(ユーログループ)で圧倒的な存在感を示したウォルフガング・ショイブレ氏が財務相を勇退し、下院議長に転出した。また2018年1月には、オランダ財務相のイェルーン・ダイセルブルーム氏がユーログループ議長を任期満了で引退する予定だ。欧州委員長を務めるジャン=クロード・ユンケル氏やECB(欧州中央銀行)のマリオ・ドラギ総裁も、2019年の任期切れで退任することになる。

先の総選挙で与党が議席を減らしたことを受けて、ドイツのアンゲラ・メルケル首相の求心力も低下した。その結果、今後のEU統合をけん引すると期待されたフランスのエマニュエル・マクロン大統領との「共同リーダーシップ」(メルクロン)に対する期待もやや萎んでいる。

EU側のキーパーソンたちがこのように、世代交代を迎える中、ギリシャ債務問題を最前線で経験したことがない政治家達が、第3次金融支援終了後のギリシャを適切にマネジメントできるか、まったくもって未知数である。

再び、金融市場の不安定要因に?

一方、ギリシャ側でも、チプラス首相が2018年中に解散総選挙を実施するという観測が高まっている。与党SYRIZAの支持率は低迷しており、次期総選挙では最大野党の中道右派、新民主主義党(ND)を首班とする連立内閣が成立する公算が大きい。いまのところ、チプラス首相には、敢えて「政権を早く譲り渡す」という戦略をとることで、野党として党勢の回復に努めたいという思惑があるようだ。場合によっては、第3次金融支援後の金融支援の交渉そのものを、新政権に丸投げするリスクシナリオも考えられる。

繰り返しになるが、現時点では、リスケジュールによる債務再編でEUとギリシャは最終的には合意に達すると考えられるものの、交渉は一筋縄ではないかないだろう。当然、欧州や世界の金融市場にとっては不安定要因となり、リスクオフの流れを受けて株安やユーロ安などになる可能性がある。確率は高くないものの、交渉が決裂し、ギリシャ債務問題が本格的に再燃するような事態になれば、金融市場へのショックはより大きくなる。

EUはギリシャ債務問題に端を発したユーロ危機を受けさまざまな金融安定化のためのセーフティネットを整備してきた。象徴的な存在がESM(欧州安定メカニズム)だが、「欧州版IMF」への機能拡大構想に前進が見られず、また反EUのうねりのなかで、その機動力が低下していないか心配だ。欧州中央銀行(ECB)や米国が量的緩和プログラムの段階的縮小(テーパリング)に着手するなど、世界の金融環境が変わりつつある時、ギリシャ債務問題が相場を腰折れさせる引き金になるのか、注意が必要だ。

土田 陽介 三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部副主任研究員

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つちだ ようすけ / Yosuke Tsuchida

2005年一橋大経卒、06年同修士課程修了。13年同博士課程単位取得退学。株式会社浜銀総合研究所を経て現職。 欧州を中心にロシア、トルコ、新興国のマクロ経済、経済政策、政治情勢などについて調査・研究を行う。主要経済誌への寄稿、学会誌への査読付き論文多数。著書は『ドル化とは何か‐日本で米ドルが使われる日』(ちくま新書)『図説ヨーロッパの証券市場(2020年版)』(分担執筆、日本証券経済研究所)『脱炭素・脱ロシア時代のEV戦略 EU・中欧・ロシアの現場から』(分担執筆、文眞堂)。 関東学院大学経済学部非常勤講師。

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