箱根駅伝「薄底vs.厚底」靴の知られざる闘い ナイキ驚異のイノベーションが歴史を変える
日本では、長い距離をペースを落とさずに走り続けるにはどうすればいいのかということが何十年もの課題でした。どうしてもリスクを抱えるのです。
ひとつは長い距離を走ることによって故障する確率が高くなる。もうひとつはスピードの低下です。アスファルトの上を長い距離、トップスピードで走り続けることは不可能ですから、長い距離に対応するためはスピードを犠牲にしたフォームとなってしまいがちなんですね。
そのためトラック競技でスピードを身に着けてから、マラソンに移行するというのが定番スタイルでした。しかし、長らく日本記録は止まったまま、停滞ムードが続いてきてしまった。
トレーニング手法が違う、アメリカに行こう、そもそも日本人の体型の問題だとかいろいろ言われてきて、しまいに「ハングリーさがない」「古き良き時代に戻ろう」なんていう精神論まで語られて。
そんな中で2017年の夏、突然ナイキが「ヴェイパーフライ4%」という靴を発表し、凄いイノベーションを起こしたのです。
世界の度肝を抜いたナイキの厚底靴
ヴェイパーフライ4%は、ものすごくソールの分厚い靴です。2017年5月、ナイキが、42.195kmを2時間以内に完走するという目標を掲げて「ブレイキング2」というプロジェクトを立ち上げ、その中で発表しました。
結果は「2:00:25」というフルマラソンにおける人類史上最速のタイムが出たのです。チャレンジ当日は、私もそうですが、もう世界中のランナーが夢中になってレースを見ていて、そして度肝を抜かれました。
これまでマラソンシューズは、薄くて軽いのに反発力があるというところがポイントで、技術的にもみんながそこを目指していました。しかし、ナイキが出してきたのは真逆の靴なんです。
「SHOE DOG(シュードッグ)」に創業時の様子が描かれていますが、創業者のフィル・ナイトは陸上選手出身で、利益先行ではなく、常にランナーファーストです。その考えが、いまのナイキにも脈々と続いていて、「薄く軽く」の常識をいったんすべて疑って、新しく作り出してしまうという凄さがある。そこにみんながびっくりしてしまったんですね。
ところが、日本には「分厚い靴は日本人に合わない」「薄ければ薄いほどいい」という定説が根強く、ブレイキング2を経ても、当初はあれは凄いけど、ケニア人や欧米人向けのもので、僕ら日本人が履くもんじゃないよなと。けど、気になるね、くらいの印象だったんです。
ところが、2017年4月のボストンマラソンで3位入賞の快挙を成した大迫傑選手(ナイキ・オレゴン・プロジェクト)が、分厚いシューズを履いていたことが話題になった。「あれはなんだ?」と。
9月、今度は、設楽悠太選手(ホンダ)が、この靴でチェコのハーフマラソンを走り、日本新記録を叩き出しました。さらに1週間後、ベルリンで2時間9分台の自己ベスト。日本新記録を出すほど走って、翌週フルマラソンでまた記録が出る。あれはダメージが残らない凄い靴なんだ、と。
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