いうまでもなく、人間は理性のみで生きていくことはできません。まして、理性と感情のギャップが大きく広がっていくこれからの時代のリーダーは、これまで以上に「人間の心」と格闘しなければなりません。
この連載では、リーダーの条件をいくつも挙げてきました。しかし、もっとも大事なことをひとつだけ挙げるとすれば、人間を偉大な存在として認識するとともに、「人間を根底においた経営」をすべきだということです。人間は誰もが偉大という「心配り」は、今までと比較にならないほど求められます。それができなければ、社長失格といえます。
どんな社員にでも誰にも負けない特技がある
具体的な例を2つほど挙げます。
ある社員の顔つきが、いかにも泣き顔をしている。いつも涙目で見るからに鬱陶しい。仕事の成績もよろしくない。それで、ほかの社員がクビにするように社長に申し入れたそうです。ところが、社長は、その話を聞くと次のように言いました。
「キミたちの言うことは、もっともだ。しかし、彼も好んで、あのような顔になったのではない。誰でも、それぞれ、好ましくないと思われる性格なり雰囲気なりがあるものだ。彼のような人材は、法事とか、弔問とかの使いには大切であり、そのことについては、キミたちは彼には及ばないだろう。どのような人材でも、それぞれに活動できる場があるものだ。その場を見つけられないとすれば、社長である私の責任だ」
これを聞いた社員たちは大いに感じ入って、それ以降、いっそう社長を尊敬し、従うようになったそうです。
もうひとつがある大手企業の創業者の話です。この方は、どんなときにも、和顔愛語で若者にも応じ、どのような来客もエレベーターや玄関まで見送るということをして、多くの人から慕われています。それを見たほかの社長が、「さすが商売人だ」と、ある雑誌で語ったことがありますが、これは人間としての振る舞いだと思います。人間を素晴らしい存在としてとらえているからこそ、こうした振る舞いができるのです。
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