ビットコインは信用できる通貨になるのか 明確な権限を持った管理者がいない

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しかし支払いへの利用を拡大させるためには、別の不安定化の危険性も拡大させる必要がある。ビットコインを使った決済が広く行われるためには、手持ちのビットコインが支払額に足りない場合に、いつでも簡単に借り入れで賄えることが必要だ。つまり、ビットコインの貸し借りが活発に行われるようになる必要がある。実際にどのような制度ができるのかはわからないが、円やドルなどの通貨で銀行システムによって信用創造が行われているように、ビットコインでも活発な信用創造が行われることになる。

円やドルなどの通貨では、中央銀行が発行しているおカネは経済全体のなかにあるおカネの一部分にすぎない。例えば円の場合には、日本銀行が発行しているおカネ(マネタリーベース)は480兆円程度だが、経済活動に関連が強いマネーストックのM2という定義では990兆円程度もある。異次元金融緩和のためにマネタリーベースとマネーストックの比は、現在は2倍程度にまで低下しているが、かつては10倍以上あるのが普通だった。マネーストックの多くは日銀が発行したおカネを元に、融資によって作り出されたものだ。

ビットコインの供給量が計画された速度で増えて行くだけで、2100万ビットコインが上限となっているというのは、日銀が発行するおカネ(ベースマネー、ハイパワードマネー)に相当する部分だけの話であり、それだけでは世の中で使われるビットコインの全量を安定的にコントロールすることはできないはずだ。

ボーナスの支払いや年越しの費用のために年末には日銀券の発行残高が大きく増えるといったように、おカネに対する需要は大きく変動する。また、民間の金融機関による資金供給意欲も先行きに対する楽観・悲観によって大きく変動してきた。何もしなければ金融市場が大きく変動し、経済活動にも大きな影響を与えてしまう。

中央銀行よりビットコインの運営者は信用できる?

中央銀行はこうした問題に対処するためにできあがってきたものだ。中央銀行のないビットコインのシステムでは、信用の膨張や収縮でインフレやデフレが起こったり信用危機が起こったりすることや、資金需要の変動によって通貨価値が変動したりすることを防げないだろう。

ビットコインなど仮想通貨を信奉する人の中には、政府や中央銀行に対する強い不信を持っている人がいる。確かに、今も昔も政府や中央銀行が常に通貨を適切に管理してきたとは言いがたい。しかし、ビットコインは発行者のいない分散型システムだとはいうものの、システムが自然発生的にできたわけではなく、ソフトウェアを開発し立ち上げた開発者たちがいる。ビットコインの改良を行ってきたこうした開発者や取引の検証作業を行っている有力マイナーなどが、ビットコインの運営に非常に大きな力を持っていることは最近の分裂騒ぎで誰の目にも明らかになった。

ビットコインの利用者のほとんどは、一連の分裂騒ぎの経過についてほとんど情報を得ることができず、いわんや意見を言ったり、影響を与えたりする機会はなかった。政府よりもビットコインの運営者たちのほうが利用者のことを考えてくれると信じることができるのだろうか?

櫨 浩一 学習院大学 特別客員教授

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はじ こういち / Koichi Haji

1955年生まれ。東京大学理学部卒業。同大学院理学系研究科修士課程修了。1981年経済企画庁(現内閣府)入庁、1992年からニッセイ基礎研究所。2012年同社専務理事。2020年4月より学習院大学経済学部特別客員教授。東京工業大学大学院社会理工学研究科連携教授。著書に『貯蓄率ゼロ経済』(日経ビジネス人文庫)、『日本経済が何をやってもダメな本当の理由』(日本経済新聞出版社、2011年6月)、『日本経済の呪縛―日本を惑わす金融資産という幻想 』(東洋経済新報社、2014年3月)。経済の短期的な動向だけでなく、長期的な構造変化に注目している

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