都心の不動産バブル崩壊、地価は最大40%下落も

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 全国の全用途平均で前年比1・2%下がり、2007年より下落率が拡大した今年の基準地価。東京、大阪、名古屋の三大都市圏平均は、上昇が続いたがその幅は縮小し、下落に転じる地域も増えた。今後の地価動向について、石澤卓志・みずほ証券チーフ不動産アナリストに聞いた。

◆ ◆ ◆

地価の騰落は今後、地域ごとに格差が広がる公算が大きい。日本全体では、東京圏独り勝ちの様相が強まるが、東京でもエリアによって明暗が分かれてきそうだ。

9月18日に発表された2008年の基準地価(7月1日時点)は、東京都品川区や港区の住宅地、渋谷区の住宅・商業地など、都心部の一部で地価が下落に転じる動きが見られた。

ファンドバブルの処理は数年続く

これらの地域の地価下落は始まったばかりで、今後数年間は調整が続くとみている。不動産の買い手がいなくなったからだ。昨年前半までは、外資系の投資ファンドが日本の不動産を積極的に購入していた。だが、同後半からは、米国のサブプライム問題の影響で、外資ファンドのマネーが細った。

金融商品取引法の施行で、不動産ファンドを運用するための人的・資本的要件も厳しくなった。中小ファンドは運用を維持できず、解散した例も散見される。今年に入って、銀行が不動産向け融資の審査を厳格化した点も、今回の地価下落につながった。REIT(不動産投資信託)の価格も暴落。REITが物件を購入するための、資金調達も難しくなっている。

オフィス市況を分析すると、たとえば近年、地価上昇が顕著だった東京・表参道の繁華街は、バブル的な状況だった。経営破綻した新興不動産企業などが、転売を狙ったとみられる不動産取引を活発化させていた。

通常、賃貸ビル事業が成り立つには投資利回りは最低年3・5%は必要。だが昨年春ごろ、表参道では利回りが2%台前半まで低下している物件を取得する例もみられた。

その点を考えれば、これらの地域では、物件の利回りが年3・5%程度に回復するまで地価が下がるだろう。その場合の下落率は、約40%と試算している。

もっともこれらの地域の地価は、過去数年にわたって2~3割の上昇が続いていた。もともと過熱していただけに、地価下落は悪いことでもない。価格調整を経て、その後の不動産投資は正常化すると期待される。

オフィス需要は東京の一部のみ

一方、東京圏では大手町・丸の内など東京駅近辺のオフィス街の地価上昇は続いている。この地域の不動産取引は実需に基づいており、物件の利回りは総じて4%を超えている。バブルではなく、今後地価が下がる可能性も低い。

東京は来年以降、11年をピークにオフィスビルが大量供給される。その中で、テナント確保に苦戦する再開発エリアも発生するだろう。今後は23区内でも地域ごとにかなり差が出てくる。

それでも、東京圏の不動産需要は潜在的に強い。ところが、東京以外の都市は総じて厳しい。近年、地価が急上昇した名古屋圏のオフィスビル市況でさえ、実は現状で供給過剰にある。

名古屋圏ではトヨタ自動車の新本社ビルが06年に完成したのを機に、関連した需要を当て込んで、オフィスビルの供給が増えた。

しかし、不動産需要は期待したほどには伸びておらず、足元ではオフィスビルの空室率が上がっている。名古屋圏は、今後も再開発プロジェクトがいくつか進行しており、供給過剰が加速する可能性がある。

大阪圏は11年以降に、大型再開発プロジェクトの完成が予定されており、オフィスビルが供給過剰になる可能性がある。地域や施設ごとにテナント確保の面で、明暗が分かれそうだ。

住宅市場は大幅調整へ

住宅市況に目を転じれば、マンション販売は、かなり苦戦している。

新築マンションの売れ行きを示す発売初月の売買契約率は、昨年8月以降は好調とされる70%を下回る状況が続いた。今年1~2月には50~60%台まで落ち込んだ。1991年以来の事態だ。

なぜ売れないのか。理由はいくつかあるが、基本的には価格が上がりすぎている。東京23区を例に取れば、新築マンションの価格は、06~07年のたった1年で19%も上昇した。

1戸当たりの価格も15年ぶりに6000万円を超えた。つまり、今のマンション市場は売れ行きはバブル崩壊直後と変わらず、価格はバブルのピーク並みというねじれた状態になっている。

08年前半もマンションの価格は下がらなかった。高値で土地を仕込んだ業者が多く、値段を下げられないのだ。

だが、今後はマンション業者も在庫を圧縮していかなければならないので、値下げが進むとみる。一部の業者はすでに率先して始めているが、10月以降は値下げ競争が本格化してくる。年収倍率などで試算すれば、首都圏の郊外では20~30%の値引きもあるとみている。

ただし、価格を下げれば売れ行きが回復するかというと、そうでもなさそうだ。今年5月と8月は初月契約率が70%を上回ったが、立地の良い物件に恵まれるなどの偶然的な要素が大きかった。

所得が伸びず、雇用環境が厳しい中で、物価の上昇や将来の増税など、家計は痛めつけられている。この状況では、住宅を積極的に購入する意欲はわかない。

日本全体で人口が減少していく中では、住宅価格は今後2~3年は下がり続けるのではないか。とくに、大都市の中心部からの距離と価格の関係から、割高とみられる地域ほど下落幅が大きいだろう。

しかしながら、東京都心部のマンションは話が別だ。価格が高くても、立地がよければ売れ行きは衰えていない。結局、良い物件は案外価格が下がらないのだ。(談)


いしざわ・たかし●1958年生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。日本長期信用銀行(現新生銀行)入行。長銀研究所主任研究員、98年第一勧銀総合研究所上席主任研究員を経て、2001年から現職。『不動産活用総合事業プラン集』(共著)など著書多数。不動産市況の的確な分析で評価が高い。

(写真:尾形文繁)

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