フランスとドイツから学ぶ真に安定した政治 大前研一が論じるポピュリズムの揺り戻し
メイ首相が賢明なリーダーなら「国民投票をもう一度やらせてほしい」と議会に諮った上で、本当にブレグジットしてよいのかどうか、もう一度、国民投票を実施して国民に問うたほうがいい。
EU残留という結果が出たら、「申し訳ないが事情が変わった。離脱は撤回させてほしい」と頭を下げればいい。イギリスが離脱を取りやめたら、EUからは非常に歓迎される。なぜならイギリスが離脱に成功したら、後に続こうとする加盟国が出てくるからだ。北アイルランドやジブラルタルがEUでなくなれば国境問題が再び火を吹く。イギリスがEUにとどまれば、イギリスに進出している企業も安心する。
現状、メイ首相は誰も望んでいないブレグジットの道を交渉の技術で乗り越えようとしているが、「離脱得は許さない」というEU側の結束が緩まぬ限りは茨の道だ。その過程で代償の大きさをイギリス国民が痛感して、離脱を思いとどまる選択肢が改めて出てくるかもしれない。逆にイギリスがのたうち回ってブレグジットを果たしたとしても、「結局、いいとこ取りはできない」ということで離脱願望のある加盟国にはいい見せしめになるだろう。
一方、ブレグジットで揺らいだEUの結束を強化する求心力になっているのが、ドイツのアンゲラ・メルケル首相とフランスのエマニュエル・マクロン大統領である。ドイツでは今年9月に総選挙(連邦議会選挙)を行って、メルケル首相率いる「キリスト教民主同盟(CDU)」が辛勝して、メルケル首相は4選されたが、連立内閣の組成に苦労している。一時期、ギリシャ救済や寛大な難民受け入れ政策が批判されて地方選などで苦戦したが、難民問題が収束するとともに支持率も回復、ドイツ経済も堅調で安定感のあるメルケル首相への信頼感はとりあえず維持されている。
史上最年少で大統領に就任したマクロン氏
ドイツにとってアメリカは重要な同盟国だが、国防費や貿易問題でドイツを挑発的に非難したり、地球温暖化対策の国際的枠組みであるパリ協定から一方的に離脱を表明したりしたトランプ大統領を評価するドイツ人はきわめて少ない。
今年5月にイタリアで行われたG7サミットの後、メルケル首相は「他国に完全に頼ることができる時代は終わった。われわれ欧州人は自らの運命を自分たちの手で握らなければならない」と演説したが、「これからはアメリカに頼らないでヨーロッパの仲間とやっていく」という決然とした態度もEU内では好感されている。
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