フランスとドイツから学ぶ真に安定した政治 大前研一が論じるポピュリズムの揺り戻し

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そのメルケル首相にとって最良のパートナーになりつつあるのがフランスのマクロン大統領である。フランスも極右政党の「国民戦線」率いるマリーヌ・ルペン氏が支持を集めるなど右傾化していたが、今年5月の大統領選挙では中道無所属のマクロン氏がルペン氏との決選投票を大差で勝利した。

39歳というフランス史上最年少で大統領に就任したマクロン氏はパリ政治学院、国立行政学院という官吏コースを卒業したエリート。財務省や投資銀行勤務を経て、オランド政権で大統領府の副事務総長、経済産業デジタル大臣を務めている。

今年6月の総選挙ではマクロン氏が前年に立ち上げた新党「共和国前進」が圧勝して、協力政党の「民主運動」と合わせると6割以上の議席を獲得した。日本で言えば都議選を圧勝して都議会第1党になった「都民ファーストの会」のようなもの。「共和国前進」も「都民ファーストの会」も立候補者は多士済々ながらほとんどが政治の素人だ。

マクロン大統領自身の政治的な資質も未知数だが、就任後は規制緩和やコスト削減などの選挙公約を次々と俎上に載せて実行に移しているから今のところ筋は通っていると思う。オランド前大統領やサルコジ元大統領といった前任者よりもフランス国民から尊敬と好感を持って受け止められているのは彼が相当なインテリだということ、それから25歳も年上の妻をいつまでも大事にしているというプライベートな一面も大きい。

これはフランス人からすれば相当な信頼感につながる。しかし政治においては(歳費削減などの)正しいことをすれば人気が落ちる。しばらくは国民との心理戦になるだろう。

「メルクロン」といわれるほど良好な独仏関係

マクロン氏はフランス人を奮い立たせるような演出にも長けている。マクロン大統領が就任後初めてNATO(北大西洋条約機構)の首脳会議に出席した際、最新に選ばれた国家元首として先輩の各国首脳から迎えられるシーンがあった。

粋な計らいでフランス国歌の「ラ・マルセイエーズ」が流れる中、マクロン大統領がNATOのリーダーたちのグループに近づいていく。先頭にいたトランプ大統領の正面方向にマクロン大統領が歩み寄ってきたので、自分が最初に握手するつもりでトランプ大統領が両手を広げて出迎えると、マクロン大統領は巧みなフェイントで避けてまずはメルケル首相とハグ。さらに他のリーダー数人と握手してから最後にトランプ大統領と握手を交わした。

あれぐらいフランス人のプライドをくすぐる演出はない。フランスのリーダーには珍しく英語が堪能で、トランプ大統領や各国首脳と英語で丁々発止とやる姿もフランス人には頼もしく映る。

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