韓国エリート層が「北朝鮮問題」に怯える事情 中韓首脳会談に臨む文大統領の思惑

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だが、文大統領には、米国政府に対して前任者たちより慎重になるだけの理由がある。「トランプ大統領が率いる米国の意向と指導力について、前例のない不確実性に直面している」と、世宗研究所のストラウブ氏は指摘する。

「文大統領は、米国本土が直接脅かされている新たな状況、そして、北朝鮮による大規模な韓国への反撃という結果をもたらしかねない米国による北朝鮮への攻撃というリスクに直面している。こうした中、中国がどうにかして米国を軍事的選択肢から対話重視へと転換させてくれないか考えている」

米国との合同軍事演習を凍結する可能性も?

歴史的、そして国内政治的経緯から、文政権を含めるいかなる政権も、実際には米国を遠ざけることは難しい。そして米国の行動や、米軍の駐留に対して不満を述べるときでさえ、韓国人の多くは、米国が韓国の味方であり続けることを信じている。ある意味では、その保障の感覚が、韓国に中国と駆け引きの余地があると考えさせている。

今回の訪中はほぼ間違いなく、中国と連携することによって北朝鮮との交渉を始めようとする文政権による試みの1つである。中国はロシアの支持を得て、いわゆる「二重凍結」協定を求めてきた。この協定では、米国との合同軍事演習をやめるのと同時に、北朝鮮が当面、核とミサイル実験を凍結することになる。トランプ政権は、この目標は同盟をむしばむ手段であるとする考えを安倍晋三政権と共有し、明白に拒否してきた。

「文大統領は少なくともある程度まではこの二重凍結協定を支持するかもしれない」とランコフ氏は言う。「しかし、協定への支持はトランプ大統領や側近たちをいらだたせるかもしれず、それを公然と表明するかどうかはわからない。加えて、合同軍事演習を完全にやめるという前提での二重凍結を、韓国が承認するのは難しい。とはいえ、韓国はおそらく北朝鮮が協定を守るのであれば、合同軍事演習の縮小や一時的保留に喜んで応じる可能性がある」。

ある種の交渉と協定は、その効力が一時的であったとしても、戦争へ向かうよりはいいと考える外交政策の専門家らの間では支持を得ている。一方、これは偽りの約束であり、1カ月、ひどい場合は、1週間も経たずにこの約束が形骸化する可能性もある。どちらの意見が正しいのか、われわれは数カ月も経てば知ることができるだろう。

ダニエル・スナイダー スタンフォード大学講師

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Daniel Sneider

スタンフォード大学ショレンスタインアジア太平洋研究センター(APARC)研究副主幹を務めている。クリスチャン・サイエンス・ モニター紙の東京支局長・モスクワ支局長、サンノゼ・マーキュリー・ニュース紙の編集者・コラムニストなど、ジャーナリストとして長年の経験を積み、現職に至る。

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