2006年秋には、敬愛するクラフト作家や音楽家、料理家などを集め、森のテラス(東京都調布市)で第1回「もみじ市」を開催した。『LiVES』『自休自足』『カメラ日和』と、自らが立ち上げた3誌の編集長を同時に務め多忙を極めていた頃のことだ。
「当時『アルバム』ばかり作っていたから、お客さんの顔が見える『ライブ』がやりたくなったのかも。来場者は600人でしたが、達成感でしばらくは放心状態でした」。
作り手に寄り添い続けた10年
そして2008年4月、独立して妻の渡辺洋子さんと手紙社を設立。「ここだから役所も全面的に支援してくれるし、地元の人から愛される会社になれた」と、北島社長は、拠点を都心部から離れた調布市に置いていることもファンを増やしてきた要素の1つと感じている。
「当初は家賃の問題で選びましたが、もともと自分がいる場所を自分の手で面白くするのが好きですし、『中心じゃなくてもいいんじゃない?』というメッセージも込め、調布にこだわっています」。
「自分たちの作りたいコンテンツ」にこだわる中で、「イベント・店舗・書籍」という3事業体制ができていったが、これらはすべて作り手支援として機能している。作り手にとって、イベントは直接ファンと出会える場、店舗は作品を売る場、書籍は作品や思いを伝える場となっているのだ。現在、売り上げ比率は、3.5:5.5:0.5。2016年度の全体売り上げは、前年期比142%と伸びている。
先頃は、新たな販路も強化。現在、ロール付箋やクリアファイルが売れ筋だという雑貨店の商品数は1000種類以上(そのうち2割がオリジナル商品)あるが、「販売チャネルを増やせば商品制作のロットを増やせるため、作家に多く還元できる」という意図から新事務所を設立し、ECにも注力し始めた。
2015年12月には、「作家が世界に出るための架け橋になりたい」と、台湾にも雑貨店を出店。ある日、同社のフェイスブックのフォロワー13万人のうち、2割が台湾であることに気づいたことがきっかけだという。今後同社が海外の作家を呼んだり、海外でイベント開催する足がかりとする狙いもある。
「手紙社」という屋号は、「自分たちの言葉で、自分たちが愛するものを伝えていく」ことをしていきたいと考えていたときに浮かんだものだそう。まさに創業以来約10年、さまざまなコンテンツ編集を通して「自分たちが愛するもの」=「作り手とその作品」の発信にこだわってきた同社。手作りのものや古きよきモノを大切にする「丁寧な暮らし」ブームとの親和性もあり、時代の追い風もあったと思うが、これからの10年はどのような「編集」で私たちを楽しませてくれるのだろう。「ほっこり系」の暮らしにあこがれる生活者としても、編集業に携わる者としても、目が離せない。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら