中国が強硬外交を「反省」している本当の理由 国際法に対するスタンスの変化を読み解く

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政治の自由民主主義は「法の支配(Rule of Law)」を重要な構成部分とする。中国の言う「法治(以法治国、Rule by Law)」とは、重点の置き方がまったく違う。前者は国民の権利を守ることを目的とするが、後者は国の統治の手段そのものである。中国は、再び内外のダブルスタンダードに直面することになる。

まず原則とルールがあり、その次にルールの実施を担保するシステムを持ち、それが公正に適用されることが「法の支配」である。そのためには、まずルールを整備する必要がある。ルールは国際法と言い換えても良い。国際法の空白があれば埋めれば良い。多数の国がそうだと言い、主要国が同意すれば、それが国際法になる。国連の場で決めても良い。

すでにルールが存在していても多数の国がおかしいと思えば修正できる。修正もまた「手続き」というルールに従い、実現される。そしてこれらのルールの実効を担保する仕組みとしての国際司法機関の拡充と強化が必要になる。

中国が言う「各国の権利と平等、機会均等、ルールの平等」の原則に従えば、この実現のプロセスは時間がかかり、長く曲がりくねったものとなろう。国際社会が話し合いでものごとを決めようとすれば、そうならざるをえない。しかしそれが民主的な国際社会の宿命なのだ。しかもそこには「透明性」と「説明責任」という基本がルールとして存在する。これがないと「公平」と「平等」は担保されない。国際関係の民主化は、それを要求する。

この「法の支配」の世界では、適用される国際法が存在するのであれば、自国にとって不利であっても、その法に従う義務がある。

前提は現状を凍結すること

中国も国際法のシステムの中に入り、空白を埋め、場合によっては修正し、そうすることによって自国の利益を担保する方向に転換するのが望ましい。講演での習近平発言の真意がそこにあることを願う。

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しかしその大きな前提は、まず事態をこれ以上悪化させないために、現状を凍結することである。現状を変更するいかなる措置も適切ではない。そしてすでに変更されてしまったのならば、現状を元に戻す必要がある。南シナ海は関係国が歩調を合わせ、東シナ海は主として中国が、それを実行する必要がある。

日本は、中国が原状を回復した後で日本との話し合いを求めてくれば、領土問題は存在しないという理屈で門前払いをすることはもはやできない。話し合いに応じることこそ「法の支配」を東アジアにもたらすことになる。力に頼り、自国の利益を他国の犠牲においてもぎ取るやり方はもう止めよう。理性に頼り、ルールに従い、話し合いにより問題を解決する。

そのことによって、今度はこの地域の平和と発展のシステムを安定的なものとし、結局はすべての国の長期的な国益に資することになる。

宮本 雄二 宮本アジア研究所代表

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みやもと ゆうじ / Yuji Miyamoto

1946年福岡県生まれ。1969年外務省入省。在アトランタ日本国総領事、在ミャンマー連邦日本国大使館特命全権大使などを歴任したのち、2006年から在中華人民共和国日本国大使館特命全権大使。2010年退官。現在は宮本アジア研究所代表、日中友好会館副会長、日本日中関係学会会長。著作に『習近平の中国』(新潮新書)、『これから、中国とどう付き合うか』(日本経済新聞出版社)など。

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