中国が強硬外交を「反省」している本当の理由 国際法に対するスタンスの変化を読み解く

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さらに「歴史と現実は、意思疎通や話し合いがいさかいの解消に効果的な策であり、政治協議が紛争解決の根本的な道であることを教えてくれる」という。そのとおりである。「各国や国際司法機関は国際法治の権威を守る責任があり、国際法の平等で一律な適用を守る責任があり、ダブルスタンダードをとってはならない」という主張も、そのとおりである。

「世界の運命は各国共同で掌握すべきであり、国際ルールは各国共同で書き上げるべきで、世界的なことがらは各国が共同で管理すべきである」という主張にも賛同する。

中国の指導者が、“国際法治の権威を守る責任”を果たせ、という条件付きながら国際法を積極的に評価し、それに平等に従い、共につくっていくべきであると主張したことの意義は大きい。ここまで明確に言い切ったのはおそらく初めてではないだろうか。自由民主主義を支えるものとしての「法治」の是認である。

これまで中国は、国際法は欧米がつくったものであり、国際司法機関は欧米に牛耳られており、だから参加しないし、できるだけ避けたほうがよい、という方針だったと私は見ていた。それからの転換である。

この方向転換の直接のきっかけが国際仲裁裁判所の裁定にあったことは十分に考えられる。2016年8月、ハーグ常設仲裁裁判所が国連海洋法条約に基づくフィリピンの提訴に対して裁定を行い、南沙諸島における中国の主張の合法性をほぼ全面的に否定したのである。  

中国はここで方向転換を行うことが、トータルな中国の利益になると判断したのだ。国際世論の逆風を緩和できるし、同時に国際法がしっかりと支配する社会が来れば、それは米国やロシアといった大国もまじめに国際法に従うということであり、中国にとって悪い話ではない。しかもこれからつくられる国際法そのものに対し、中国の影響力は確実に増大する。

だから習近平は米国を念頭において「国際社会は国際法の平等で一律な適用を守る責任があり、ダブルスタンダードをとってはならない」と釘を刺したのである。

方向転換は、本気なのか、ポーズなのか

だが、本質的で根源的な問題は残る。すでに一部触れたように、それは中国が、現在の国際秩序を支える経済の自由主義と政治の自由民主主義というものをどのように理解しているかという問題と直結する。

つまり便宜的にそれらを支持するふりをするのか、それとも本気で支えるのかという問題でもある。なぜなら日本や欧米は、国内的にも国際的にも基本的に経済の自由主義と政治の自由民主主義を信奉しているのに対し、中国は国内的には「中国の特色ある社会主義」だ。

やはり両者は違う。中国がどこまで国際社会においてこれらの理念を遵奉するのか、その本気度を彼らの行動を通じてしっかりと確認していく必要がある。自由主義や自由民主主義というものは、価値観や理念そのものであり、それらを体現する原則とルールを持ち、それらを実行する仕組みを持っている。

たとえば経済の自由主義は、自由貿易を重要な柱としている。中国が本気で経済の自由主義を信奉するのであれば、日中韓自由貿易協定は日本が要求しているように、より高次の自由貿易を実現するのが望ましい。現時点において国内産業を保護する必要があるというのであれば、保護の期間を決め、その後は原則、自由にするべきだ。つまり実際の行動を表明した価値観に合わせるのが筋だ。

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