ラノベ作家「本格鉄道ミステリ」に挑んだワケ 目指したのは現代版「新幹線大爆破」
豊田は本格派鉄道ミステリを書くにあたって、必ず抱くようにしているテーマがあると言う。それは、これから先の未来に起こりうる事件、将来発生してしまうかもしれない事故の抑止力になりたいという強い意志だ。だから豊田の小説は、海外のように鉄道がテロのターゲットになりうることを示唆しているし、犯人の痕跡を現代のテクノロジーで追跡もしている。
擬音を多用する表現力の華やかさ、ついのめりこんでしまう緊迫感あふれるストーリーに一見だまされてしまうが、その意志を軸に持った内容は意外にも古典的な社会派ミステリである。そんな骨太の思いを抱き、現在起こりうるハイテク犯罪、スマホ、SNS、パソコンによる解析、鉄道会社のネットワーク化等をちりばめ、現代版『新幹線大爆破』を目指していると言う。
『新幹線大爆破』とは1975年に公開された日本映画。新幹線の走行速度が時速80kmを下回ると爆発すると国鉄を脅迫し、死者を出すことなく大金を得ようとする犯人と国との戦いを描いた犯罪映画である。
2~3時間だけ楽しんでもらえれば十分
『警視庁鉄道捜査班』シリーズを書くに当たって豊田はいくつものプロットを作る。初めての本格派ミステリである。いつも何度かダメ出しをくらうことになる。「そこで豊田先生のすごいところは、初期のアイデアを手直しして戻してくるということがなく、全く違う新しい案がいくつも出てくることなんです」と岡本はうれしそうに言う。
鉄道ミステリの大御所・西村京太郎は鉄道長編ミステリを書くにあたり、「新幹線内で東京駅から読み始めて、新大阪駅で読み終わる分量」を意識しているという。豊田もまた同じようなことを口にする。「読者には2時間から3時間、本を楽しんでもらえたらいい」と、そして、「『こんな事件が起こるかもしれないかも』と頭のどこかにほんの少しでいいから留意してもらって、その数時間が楽しければ、ストーリーなんて忘れてもらってかまわない」と……。
しかし、豊田の鉄道ミステリは、数時間の楽しみでは終わらない。子供向け、中高生向けにも鉄道小説が書かれている。何年かあとに年若い読者が『警視庁鉄道捜査班』シリーズに手をのばす可能性もある。だから、今はまだ漢字が読めないかもしれない、将来の鉄道ノベルスファンのためにそっと本棚にしまっておくのも手ではないかと思うのだ。(敬称略)
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