ラノベ作家「本格鉄道ミステリ」に挑んだワケ 目指したのは現代版「新幹線大爆破」
旅行とはいえ、鉄道作家の取材だけに旅が始まった直後から終わるまで「いつ何時ここが『殺人』の舞台になるかわからない」「トリックに使える」、そんなことを考えながら、車両の中もAEDや公衆電話の位置、トイレの形状に至るまで確認し、路線ごとの特徴、見どころを発見していく豊田の様子は、本人いわく「鉄道公安隊の鑑識のよう」。その挙動はもし現代に鉄道公安隊が存在したら職質を受けるのではないかと心配になるほどだったという。
そんな楽しい鉄道取材旅行を経て、意気投合した豊田と岡本が『警視庁鉄道捜査班』のためにタッグを組むことになったのは、岡本が講談社文芸第三出版部、講談社ノベルスを発行する部署に異動したときである。
喜び勇んだのは岡本だけではない。豊田も同じだ。西村京太郎先生に憧れて入った鉄道小説の世界である。初めての本格派鉄道ミステリを鉄道に詳しいプロフェッショナルな編集者と一緒に作れる。こんなにありがたいことはない。
しかし書き始めてみると、それまで書いていた児童小説やライトノベルとは全く違う難しさがあることを知った。『電車で行こう!』や『RAIL WARS!』執筆時には、豊田の目の前にアニメーションが流れるかのように登場人物が現れ事件が起こり、彼らが自らの力で解決してくれる、それを書き留めていけば物語になった。
豊田の売りはアニメを見ているようなスムーズな流れのストーリーにある。心くすぐられるエンターテインメント性、臨場感あふれるアクションに引き込まれて、いつのまにか事件の謎を解いていくという軽やかさ。これを鉄道ノベルスの世界に持ってきたら新風を起こすに違いない。
年配の人にも読んでもらう工夫
「しかし」と岡本は笑いながら言う。「豊田先生がグッと勢いに乗って書いていらっしゃるせいか、どうしても文章がガサツになってしまうんですよね」。
豊田も笑いながら返す。「本当に原稿が真っ赤になって返ってくるから、修正部分に赤ペンで『OK』って書くのが面倒になってハンコを買っちゃったよ」。
確かに見せてもらうと、めげてしまいそうな原稿の赤入れである。
「ミステリ小説ファンは年配の読者が多いので、文章がいやだなと思うと、どんなに面白くても先を読まずに本を閉じちゃう人が多いのでもったいないんですよ」という愛ある岡本の赤入れに、豊田は感謝していると言う。
「岡本さんの目は本格派ミステリ小説ファンの目。この厳しいチェックを超えてこそ、正統派にも耐えうる文章力を手に入れられるものと思っています」
豊田と岡本には共通の思いがある。小学生のときには『電車で行こう!』、中・高校生のときには『RAIL WARS!』という豊田の鉄道小説を読みながら大人になった読者に、いつか『警視庁鉄道捜査班』を読んでほしい。
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