三木谷社長が「規制改革」を主張し続けるワケ 「このままでは日本の自動車産業も危ない」

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三木谷:政治の状況がどうであったとしても、現実は待っていてはくれない。これだけは事実です。もう、議論をしているような状況ではなくなりつつあるのは間違いない。たとえばお隣の中国ではキャッシュレス化が徹底的に進んでおり、もうキャッシュを使って買い物をするのは日本人旅行客ぐらい、というふうになってしまった。わずか数年でそこまで進んでいるんですよ。

もっと驚くのが交通信号です。交差点の信号も、ライドシェアリングカンパニーが、赤と青のタイミングを決めるようになっている。データを持っているところが決めたほうが効率的ですから、なにもお役所がやる必要はない、と。そのくらい先に行っちゃってるわけです。ところが日本はまだライドシェアは白タクであるというふうになっているわけで。

つまり、ライドシェアの先では、都市構造自体も大きく変わっていくわけです。にもかかわらず、日本の大きい遅れは心配ですね。日本の最も中核であった自動車産業についても、厳しい状況に追い込まれるシナリオが十分考えられる。だからこそ、われわれとしては前向きに、新しいことをやっていきましょうよということで官庁、そして永田町にも働きかけているわけです。

基本的には、「なんでこの規制が必要だったんだっけ?」というところから議論を始めればいい。おそらくライドシェアを禁じている理由は「乗客の安全性を守るため」ですよね。別に業界団体を守るために規制を始めたわけじゃない。「じゃあ、今の仕組みがその安全性を守るための最善の方法ですか」という話。実際にライドシェアをやっている国は多いので、そこと日本のタクシーと比べてどっちが安全なのかを検証すればいい。その結果、安全性に問題があれば、克服できる可能性があるのかどうかを検証すればいい。この分野は、これ以上遅れると極めて厳しい状況になります。いっそのこと、追いつこうとするのではなくて、むしろ他の国よりも前に出ることを考えたほうがいいと思うんですよね。

今のシステムが最善の方法なのか?

山田:ライドシェアの分野では、出資しているLyft(リフト)、Cabify(キャビファイ)、Careem(カリーム)の3社とも好調。しかし、それを日本で展開するのは難しいわけですね。

三木谷:今の規制だったらできない。しかし、それをあまり言うとたたかれますからね。

山田:確かに、「自分の会社が出資している事業について規制緩和を求めるのはけしからん」という声があります。抵抗勢力が使うロジックで大手メディアも乗りがちなのですが、これはおかしい。裏献金などのルール違反をしているのであれば大問題ですが、そうでなければ、むしろ実際に事業を行っている者こそが強く主張するべきだと思います。

そもそも、これまでの規制体系は壊れかけている。今までは「大企業はしっかりしている」という前提があった。たとえば完成車の最終検査はルールどおりにやっているだろう、東レや神戸製鋼所のような名門はうそをつかないだろう、と。要するに、大企業が信用できるということを前提に定義されていた安全性なのかもしれない。そして、それは崩れている。

三木谷:そうですね。もう社会、生活、それから価値観というものが、ここから10年間で抜本的に変わると思います。その中で米国の多くの政治家は「子どもたちのために新しいシステムを設計しなければいけない」と考えているんですよ。日本の政治家も、「自分たちのためではない、子どもたちのためなんだ」という思いをもっともっと持つべきだと思いますね。

山田:そういう政治家や官僚は増えてきていますよね。

三木谷:新経連による活動も奏効しているのだと思いますが、着実に増えています。悲観はしていません。

山田 俊浩 東洋経済 記者

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やまだ としひろ / Toshihiro Yamada

早稲田大学政治経済学部政治学科卒。東洋経済新報社に入り1995年から記者。竹中プログラムに揺れる金融業界を担当したこともあるが、ほとんどの期間を『週刊東洋経済』の編集者、IT・ネットまわりの現場記者として過ごしてきた。2013年10月からニュース編集長。2014年7月から2018年11月まで東洋経済オンライン編集長。2019年1月から2020年9月まで週刊東洋経済編集長。2020年10月から会社四季報センター長。2000年に唯一の著書『孫正義の将来』(東洋経済新報社)を書いたことがある。早く次の作品を書きたい、と構想を練るもののまだ書けないまま。趣味はオーボエ(都民交響楽団所属)。

 

 

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